海外で暮らす子や孫への相続の注意点〜国外転出時課税①〜


海外で生活する家族への相続には、出国税(国外転出時課税制度)に注意が必要です。

出国税ともいわれる国外転出時課税制度が、平成27年7月1日より始まりました。近年の富裕層を中心とした海外移住ブームに、国税庁が目をつけた結果といえます。資産家の方の間では一時期話題になりました。ただ、この制度は資産を海外に持ち出せば自動適用されるというものではありません。一定の条件のもとで海外転出をする方の資産のうち、有価証券などの含み益に課税されるというものです。

しかし、海外移住ブームといっても、日本の富裕層の中心は年配の方になります。今さら住む国を変える、日本を去ることに抵抗を感じる年配者も多く、一時期メディアを賑わせたほどには、富裕層の海外移住は進んでいません。そのため、国外転出時課税制度も、ごく一部を除き、現在はそれほどの注目を浴びていない状況です。しかし、資産を持っている人が国外転出しなくとも、相続や贈与によって海外居住者に資産が移った場合には、この制度の適用対象となります。

富裕層の方のご家族には、既に海外に居住を移されている方も多いため、注意が必要になります。

国外転出時課税制度の要旨と概要

現在、富裕層や多国籍企業による節税対策としての海外移住や海外移転は、世界中で注目する人が多く、税関連の重要テーマといえます。多くの国では、やはり自国の税収が減ることを良しとしないため、富裕層の海外移転を歓迎していません(もちろん、逆の移入は歓迎しています)。

そこで、所得税や相続税の安い国へ移住を検討する富裕層課税への対策として、出国税が議論のテーマになります。日本においても、平成27年の税制改正大綱に盛り込まれ、平成27年7月から国外転出時課税制度としてスタートしました。ただし、あまり正確に理解されていない場合も多いので、まずは制度の概要をおさらいしましょう。

日本の国外転出時課税制度では、全ての資産が課税対象となるわけではありません。その対象財産は、有価証券など、含み益の発生し得る資産に絞られます。税率もそれらの資産を売却時に発生する所得税および復興特別所得税と同率です。国内に居住する方が対象財産を売却した場合に比較して、不公平というわけではありません。しかし、出国時における株式等に係る未実現のキャピタルゲイン等に対しても課税がされることになります。

例えば創業オーナーなどが、居住者として株を売却すれば含み益の課税がされます。しかし、海外居住者が売却した場合、その国ごとの税制によるので、含み益には課税されない場合があります。それは不公平ということで、出国段階で売却があると「みなして」課税をするというのがこの制度の主旨になります。また、移住先の税制では、課税時の評価額が取得額として取り扱われます。

国外転出時課税制度の対象者

海外に移住する方全てが対象者になるわけではありません。具体的には以下のような場合が課税対象となります。

①1億円以上の課税対象資産の保有者が国外転出する場合
②1億円以上の課税対象資産の保有者が、海外居住者に対象資産を贈与する場合
③1億円以上の課税対象資産の保有者が、海外居住者に対象資産を相続・遺贈する場合

①から始まる通り、対象となる資産を1億円持っていなければ、課税の対象となりません。例えば資産の合計額が1億円を超えていても、現金などの割合が多い場合などは課税対象とならないのです。

ここでの注意点は②や③でしょう。本人が海外へ移住する場合以外に、海外居住者への贈与・相続・遺贈も課税対象となります。また、実際に相手方が取得する金額ではなく、贈与人・被相続人側が対象資産を1億円以上持っているかどうかが課税発生の判定基準になります。
(課税が発生するかの判定は、居住者側が対象資産を幾ら持っていたかによりますが、課税金額は実際に海外居住者に贈与・相続・遺贈された対象資産額に税率を適用して算出します。)

この話で、対象となる資産を持つ方へ影響が大きくなるポイントは②と③でしょう。冒頭にもお伝えしたように、富裕層の方ご本人が海外へ移住するする例は日本全体ではあまり多くありません。しかし、海外で居住している子女を持つ富裕層はとても大勢いらっしゃいます。創業オーナーの家系であれば、海外の現地法人や拠点の統括をされている場合もあるでしょうし、富裕層ほど子女に海外留学させる例が多いので、そのまま海外に居住する場合も多くあります。全てのご子息が海外にいるという場合はやはり少ないでしょうが、そのうちの何人かは海外にいるという場合は多いのです。

相続時の課税に問題が発生

この制度の一番の問題は、実際に対象資産の売却をしたわけではないのに、課税が発生することでしょう。その場合、他に現金などを持っていないと、納税資金を用意できなくなる場合があります。そのため、特に③には注意が必要でしょう。①の場合と②の場合は、本人達の意思に基づいて行われますので、納税資金のことを含めて用意が可能です。しかし、③の場合は突発的に発生する可能性があり、そのような場合に納税資金の確保に課題が生じ得ます。

対象となるような財産を持ち、海外で居住されている相続人の方がいる場合は、念のために簡単なものでも準備進めた方が良いでしょう。その詳細については、別記事にてお伝えします。


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