海外で暮らす子や孫への相続の注意点〜国外転出時課税②〜


相続人の中に海外居住者がいる非上場企業オーナーは、自社株の評価を見直しましょう。
海外で暮らす子や孫への相続の注意点〜国外転出時課税①〜にてお伝えした通り、国外転出時課税は資産家の相続にとって、思わぬ痛手となる可能性があります。しかし、その対策自体はそれほど難しくはありません。
まず、海外に居住する相続人に対しては、現金など国外転出時課税制度の対象とならない財産を送れば良いのです。

また、他に相続人がいないため、対象財産となる有価証券を渡さざる得ない場合や、海外に居住する子が会社の後継者であり、株を贈与したいという場合もあるでしょう(後継者が海外の現地法人や拠点の責任者を務める例は多いです)。その場合は納税資金の準備や、納税猶予の特例を利用するための準備が必要になります。

これらの準備を行い、備えを万全なものとするために、もう少し詳しくこの制度について理解しましょう。特に課税される際の財産評価額の理解は極めて重要になります。

国外転出(相続時)課税制度の概要

まずは、相続時における国外転出(相続時)課税制度の詳細を確認しましょう。

◼︎制度の対象者

被相続人が、下記のいずれにも該当する場合
・相続開始時点において、保有している対象資産(※下記詳細)の時価の合計額が1億円以上であること
・相続開始前10年以内において、国内に5年を超えて住所または居所を有していること

また、非居住者の相続人とその相続財産のみ制度の対象となり、非居住者の定義は以下の通り
・国内に住所を有する、もしくは現在まで1年以上継続して居所を有する個人を居住者として扱い、それ以外は「非居住者」となる。
・ただし、租税条約を結んでいる国とは、その条約によって個別に居住者、非居住者が定義される。

◼︎対象資産

・非上場、上場問わず株式、投資信託、公社債などの有価証券
・未決済信用取引、未決済デリバティブ取引など

◼︎申告・納付

・相続開始時点の時価で、対象資産の譲渡があったとみなして、対象資産の含み益について所得税が課税される
・申告、納付期限は相続開始があったことを知った日から4ヶ月以内(準確定申告と同じ=準確定申告と同時に行う)
・納税が困難な場合は猶予制度あり
・準確定申告(相続の開始を知った日から4ヶ月以内)までに分割が決まらなかった場合、法定相続分による相続とみなして納税する
・準確定申告時に法定相続分で納税し、遺産分割確定後に更正の請求をする場合、現行では不可だが、平成28年税制改正大綱では可能になる

◼︎課税が取り消される場合

相続開始から5年以内(納税猶予により、納税期限を10年に延長している場合は10年以内)に下記の手続きがあった場合
・相続によって対象資産を取得した非居住者全員が帰国した場合
・非居住者が対象資産を居住者に贈与した場合
・非居住者の相続により、新たに対象財産を取得した人が全員居住者となった場合

以上が、制度の概要になります。特にポイントは、納税期限でしょう。準確定申告と同じ、相続開始から4ヶ月以内であり、生前によほど準備をしていた場合を除いて、4ヶ月ではまず遺産分割が確定していません。法定相続分で計算して納税するか、納税猶予の特例を用いるかのどちらかになります。
(納税猶予の特例については、次回の記事にてお伝えします。)

非上場株式の評価方法

国外転出時課税制度において、最も課題となる対象資産は非上場の自社株となるでしょう。それ以外の上場株や投資信託などの金融資産は、客観的な市場価額があるため時価評価が簡単であり、大半の場合で売却も容易です。いざという場合には、資産を売却すれば納税資金の確保は可能です。しかし、自社株の場合は、評価も難しく、売却・換金しづらいことから納税資金の確保にも課題が生じてしまいがちです。

きちんと準備をするためにも、非上場株式の評価の方法(所得税法上の評価)を押さえましょう。専門的な話になりますが、相続税課税時の評価額とも近いのですが、若干異なり、残念ながら含み益の法人税等相当額控除がないなどにより相続税評価よりも高く評価される場合が多くなります。具体的には、所得税基本通達23〜35共-9(4)及び59-6の取り扱いに準じて計算され、要旨は以下のようになります。

①売買事例がある場合 → 最近の売買事例より、適切な価額
②直近で上場を予定している場合 → 公募価格を参考とする
③売買事例はないが類似企業の株価の価額がわかる場合 → その価額に品順して推定する
④上記①〜③に当たらない場合 → 一株あたりの資産額より純資産価額などを参酌して算定


なお、通常の非上場企業であれば、①〜③が適用できる場合は稀です。ほとんどの例では④になるでしょう。そしてこの④の場合が、相続税の評価よりも高くなりがちになります。納税資金の準備には十分気をつけてください。た、税法上の株価の算定は複雑ですので、正確に計算するには税理士のアドバイスを仰いだ方が良いでしょう。

所得税基本通達23〜35共-9(4)

(株式等を取得する権利の価額)

(中略)

(4) (1)から(3)までに掲げる場合以外の場合  次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる価額とする。

 イ 売買実例のあるもの  最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

 ロ 公開途上にある株式(金融商品取引所が株式の上場を承認したことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式及び日本証券業協会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前日までのその株式)で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われるもの(イに該当するものを除く。)   金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われるブックビルディング方式又は競争入札方式のいずれかの方式により決定される公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額

 ハ 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの  当該価額に比準して推定した価額

 ニ イからハまでに該当しないもの  権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

(注) この取扱いは、令第354条第2項《新株予約権の行使に関する調書》に規定する「当該新株予約権を発行又は割当てをした株式会社の株式の1株当たりの価額」について準用する。

所得税基本通達59-6

(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)

59-6 法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。 (平12課資3-8、課所4-29追加、平14課資3-11、平16課資3-3、平18課資3-12、課個2-20、課審6-12、平21課資3-5、課個2-14、課審6-12、平26課資3-8、課個2-15、課審7-15改正)

(1) 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。


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