海外で暮らす子や孫への相続の注意点〜国外転出時課税③〜


国外転出(相続時)課税制度で納税猶予の特例を利用するには、要件が多く注意が必要です。

これまでの記事「国外転出時課税①」「国外転出時課税②」でお伝えしたように、資産家の国外転出を行う、あるいは、相続贈与などで非居住者に国外転出課税制度の対象資産を譲る行為には、その資産の含み益相当額に対する所得税が課税されます。そして、本人の転出や贈与の場合には、計画段階で納税の準備も可能ですが、相続は突然発生する場合が多く、納税資金の確保が間に合わない場合があり得ます。

そのような場合に備えて、この制度には要件を満たせば納税の猶予が受けられます。ただし、猶予を受けるための要件もありますので、特に納税資金の準備が難しい場合は猶予要件をよく押さえておくと良いでしょう。

納税猶予の特例

まず、猶予制度の概要ですが、猶予期間は原則として相続開始の日から5年間となります。ただし、猶予期間の延長の届出をすることで、更に5年間、猶予期間を延長できます。ただし、以下のような要件を守らなければなりません。


被相続人の準確定申告の期限までに、納税猶予を受ける旨を記載した確定申告書の提出
②納税猶予分の所得税及び利子税額に相当する担保の提供
③納税管理人の届出を行う
④猶予期間中、相続人は各年3月15日までに継続届出書を提出

①は準確定申告の際に、同時に行えば問題ありません。

②に関しては、課税対象となっている資産を担保として提供したいと思われる場合が多いでしょう。ただし、そもそも納税猶予が必要になる場合、課税対象となっている資産が上場株や投資信託などの換金の容易な資産の場合は稀で、大半が流動性のない未上場の自社株などのケースでしょう。未上場株を担保として提供する場合には、やはり満たすべき要件があり、そしてその要件はかなり厳しいものになるので注意が必要です。

③の納税管理人は、日本に居ない非居住者の代わりに、納税や還付金、書類の受領など納税に関する一切の手続きを行う人のことです。届出は各税務書や、webからでも入手可能です。
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/07.htm

④の手続きは、猶予期間中毎年必要です。納税管理人に代理として行ってもらうと良いでしょう。

なお、納税猶予を受けると利子も付いてしまいますが、1点有利なことがあります。それは猶予期間中に、取得した対象資産を売却した場合です。その場合、相続時の時価よりも上がっていても税額は変わりません。そして、相続時の価格よりも下落していた場合は、課税金額を更正可能です。この変更は、既に納税を済ませてしまった場合は適用できません。

非上場株式を担保として提供する場合

納税猶予の特例を受けるために、非上場株式を担保として提供する場合、以下の要件を満たす必要があります。


①株券の発行がされていない場合は、株券の発行が必要
②譲渡制限が付いている場合、譲渡について取締役会の承認を受けるなど、譲渡可能としたことを証明できる議事録の写しなどの提出
③財産のほとんどが非上場株式であり、当該株式以外に納税猶予の担保として提供出来る財産がないこと、もしくは非上場株式以外にも財産があるが、他の債務の担保となっており提供が難しいこと

読んで頂いた通り、かなり厳しいと条件といえるでしょう。①は株券不発行の会社では事務手続きが必要になりますし、②は相続人が会社との関わりが薄い場合などには、取締役会も嫌がり採決されないかもしれません。また、③の条件を満たすことも、財産状況次第ではありますが、多くの場合難しいといえます。どの程度まで融通を効かせることが出来るのかについては、税務署や税理士とよく相談して進める必要があります。

まとめと事前の準備

最後に国外転出時課税についての一連の記事のまとめです。

まず、有価証券などの対象資産を1億円以上保有する方の相続人あるいは遺贈相手に海外居住者がいる場合、海外居住者が受け取る対象資産にはその含み益について所得税及び復興特別税が課税されます(分離課税のため、含み益の役20%)。また、海外居住者が対象資産を相続しなくとも、準確定申告までに遺産分割が済んでいない場合には、法定相続分にそって対象資産が按分されたとして納税が必要となります。

この納税は、実際に対象資産を売却しているわけではないので、納税資金の確保が難しくなりがちです。そのため、あらかじめ特に売却が難しい非上場株式の時価の把握や遺産分割の検討、もしくは納税資金の確保や納税猶予の事前準備などを行っておきましょう。
また、この点、未実現の利益への課税であることや期限の厳しさなど実務への影響にも配慮し、今後の制度改正が望まれるところでもあります。


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。* が付いている欄は必須項目です。
※運営者にのみメッセージを送りたい場合は、「管理者だけに表示」にチェックを入れてください。