この1件で教科書が書ける!〜力道山の相続はなぜ失敗したのか(後編)〜


若くして事業の成功を納め40億円(現在の価値で約180億円)もの財産を築いたものの、不運にして39歳にして亡くなった力道山。その相続で残された妻と子どもたちはどうなったのでしょうか。

結論から言えば、力道山の家族は莫大な遺産を受け注ぎながらもそのほぼ全てを失うこととなりました。そんな力道山の相続の問題は、大きく分けると2つに集約されます。

(前編の記事はこちら)

力道山の相続に何が起きたのか?

力道山の相続の問題点の一つ目は、財産を引き継ぐ相続人である遺族たちが幼いといって良いほどに若い方が多く、相続の知識経験以前のレベルで、莫大な遺産に対処するために必要な知識や経験が何もなかったことです。力道山の相続人は全員で5名が、10代後半の実子3人、まだ22歳の後妻、後妻のお腹の中にいた胎児でした。莫大な遺産を狙って、様々な人が「私のいうことを聞くと良い。聞かなければいけない。」と言い寄ってきます。結局遺族は後見人を立てその人を頼ったのですが、その後見人VTRを見る限りは頼りになるとは言い難い様子でした。

もう一つの問題は、力道山の偏った財産構成です。40億円の遺産の大部分が、上で挙げた大田区の自宅や数々の事業用不動産だったのです。相続税は当時の最高税率(75%)が適用(*1)されたのですが、納税に必要な現金ほとんどありませんでした。相続税課税総額は23億円と莫大で、すぐには収められません。相続税の延納制度はありますが、延滞税が発生し一時期は延滞税が1日300万円という状況になります。
(*1)現行では、平成27年1月1日以後の相続発生の場合の相続財産6億円超の部分に課せられる55%が最高税率となります。

また、遺産総額に比べれば数億円と少額だったのですが、力道山には事業用資金などの借金がありました。力道山が元気なうちは安心していた債権者も、力道山の死後本当に資金が回収できるのか不安になり、即時での全額返済を求めて遺族に詰め寄ります。

残された遺族は相続税の納税と借金返済のために、急いで不動産を売却しようとしますがそれがいけませんでした。遺族の状況は相手にも伝わり、数億円の不動産を2000万円で買われるなど足元を見られ散々に買い叩かれることも多かったようです。

また、単純な準備不足により、種々の対応が後手後手になってしまったことも問題を大きくする原因となりました。39歳という若さで自分が死ぬとは考えもしなかったでしょうから仕方ないのかもしれませんが、相続への準備は一切されていませんでした。もちろん遺言書も無ければ財産目録などもありません。家族は相続をすると言っても自宅以外の財産は何があるのか見当もつかない状況です。

納税用資金や借金の返済用資金の確保のために不動産を買い叩かれたことなどが原因で、家族は住み慣れた家まで追われます。結局、遺産はほとんど残りませんでした。

家族はどうすれば良かったのか?

では、力道山の一家はどうすれば良かったのでしょうか。相続税率自体が現在よりもずっと高い時代でしたので、遺産を半分以上失うくらいまでは仕方なかったでしょう。また、39歳という若さでの突然の死でしたので、事前の対策もできなかったでしょう。しかし、あらかじめ資産管理の適切な対応をしていれば、もっと多くの遺産を残せ、住むところを追われるほどにまではならなかった可能性も高かったでしょう。

まず、借金に関してはその返済を慌てる必要はありませんでした。力道山が死んだからといって、即時で一括返済し無ければいけないわけではありません。借りた時に取り決めた返済期日までに返せば良いのです。そうして時間を稼いでから、ゆっくりと良い条件で不動産を売却すれば良かったといえます(*2)。
(*2)契約で相続発生により期限の利益喪失の条項が付いていれば別ですが、債務者が死亡した場合に債務の期限の利益が喪失してしまうという事はなく、債務は、法定相続分に応じて当然に分割されて、各法定相続人に相続されます(民法896条・427条、最高裁判例 昭和34.6.19)

ましてや、当時はデフレと不況が続いた平成と違い、インフレと経済成長によって地価が上がり続けた時代です。また、相続税物納を選んでも良かったかもしれませんし、受け継いだ不動産を担保に融資を受けるなども交渉すれば良い条件を掴めたかもしれません。

ただ、あまりにも若かった遺族には、そのような手段を考える相続の知識も、そもそもの社会経験もありませんでした。

「爆報!THEフライデー」の番組上で救いだったことは、少なくともVTRに出演された力道山の次男、百田光雄(ももたみつお)氏は幸せそうだったことです。遺産の大部分は失いましたが、不幸中の幸いというか借金を背負うほどにまでには至らず、遺族の方はその後自力で自分の人生を切り開いていくことができました。百田光雄氏は父・力道山と同じくプロレスの世界へと進み、現在も最高齢プロレスラーとして現役で活躍しています。

「(遺産は失いましたが)僕は幸せです。父からはプロレスの魂を受け継ぎました。」と笑顔で答える百田氏の姿はとても印象的でした。


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