人気の「教育資金贈与」や「結婚・子育資金贈与」の節税効果が実はないって本当?


祖父母や親から子どもの教育資金や結婚・子育資金を世代間にわたる贈与による資金移転を促進するための特例制度である教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与特例が注目を集めていますが、実は、これら、教育資金や結婚・子育資金の一括贈与の利用は、実益を生む節税効果はないことはあまり知られていません。
本稿では、教育資金や結婚・子育資金の一括贈与に事実上の節税メリットがない、ということを解説します。

教育資金の一括贈与特例(祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度)、結婚・子育資金の一括贈与(結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置)は一定の利用がされています。平成27年9月末で、教育資金の一括贈与特例を行う教育資金贈与信託の契約数(累計)は141,655件、信託財産設定額(累計)は 9,639億円となり、結婚・子育ての一括贈与を行うための支援信託は平成27年4月1日から開始ながら6ヶ月で2,000件を超える契約数となっています(一般社団法人 信託協会より)。
教育資金や結婚・子育資金の一括贈与の特例を利用するためには、信託銀行で贈与信託を活用することになり信託銀行も盛んに宣伝もしています。日本の家計の金融資産は60代以上が全体の6割を占めており、祖父母世代から消費が活発な若年層である孫世代への資産の移転を促し経済の活性化を図るための解決策としても期待されています。

このように現在注目を集めている教育資金、結婚・子育資金の一括贈与の特例ですが、節税効果はほぼありません。

教育資金贈与と結婚・子育資金贈与の概要

家族内であっても財産を贈与した場合には、贈与税が発生します。例えば、親が子どもに贈与を行い、年間に無税で贈与できる110万円以上の贈与を受けた子どもは贈与税の申告と納税を行う必要があります。
贈与税の税率は超過累進税率をとっており、贈与税率が増えるほどにその税率も上がり、最高(年間4,500万円超)では55%もの贈与税が掛かります。ここでは計算の仕方の詳細は省略しますが、例えば、直系の父母や祖父母から子や孫が1500万円の贈与を受けた場合、基礎控除110万円を考慮し、40%の贈与税と190万円の税額控除が発生するため、課税金額は366万円になってしまいます。

ここで、教育資金や結婚・子育資金の一括贈与の特例を活用すれば、贈与税は発生しません。この制度は、一定の条件のもと父母や祖父母から、子や孫に対しての贈与に係る贈与税を免除する特例で、冒頭での説明の通り、現在人気を集めています。

まず、下記をご覧いただき制度の概要をご理解ください。
簡単な流れの説明としては、贈与をする祖父母が信託銀行等の金融機関が用意する「信託」の口座に最初に贈与資金を預けて、贈与を受けた子どもが特定の目的(教育資金や結婚・子育資金の資金)に使用したお金を支払を証するものを金融機関に持っていくと、「信託」の口座から子どもがあらかじめ預けていたお金を受け取れる、ということになります。

◼︎教育資金の一括贈与に関する特例

・平成25年度税制改正によって創設(平成25年4月より制度開始)
・子や孫1人につき、1500万円までの教育資金の贈与が非課税となる
・ただし、受贈者たる子や孫の年齢は30歳未満に限られる
・単に贈与を行っても制度の対象とならず、贈与者は信託銀行などの金融機関に専用口座を開設し、そこに入金する
・またその際に、教育資金非課税申告書を金融機関に提出する
・受贈者は、入学金、授業料、修学旅行費用など教育資金の支払いが発生した場合、まず支払いをし、その領収書を金融機関に提出し払い出しを受けることで贈与を受ける
・受贈者が30歳になると自動的に契約は終了し、口座に残額があれば贈与税の対象となる
・対象資金の用途は基本的に学校に対して支払ったもののみで、進学による一人暮らしの下宿代などは含まれない
・また、ピアノやバレエなど学校以外の習い事の月謝などについての非課税枠は500万円まで
・契約期間に一括贈与が未使用であった場合は、契約期間終了時に未使用の額に贈与税が掛かる(結婚・子育資金の一括贈与も同様)
・贈与者が亡くなった場合、贈与者の死亡による課税関係は生じません。ただし、孫である受贈者が30歳になり契約が完了し、贈与資金を使い切れず口座に残額があれば贈与税の対象となりますので、相続直前に使い切れる予定がないのに慌てて一括贈与を行うことには注意が必要です。

◼︎結婚・子育資金の一括贈与に関する特例

・平成27年度税制改正によって創設(平成27年4月より制度開始)
・子や孫1人につき、1000万円までの結婚・子育資金の贈与が非課税となる
・ただし、受贈者たる子や孫の年齢は20歳以上50歳未満に限られる
・教育資金の一括贈与と同じく、贈与者は信託銀行などの金融機関に専用口座を開設し、そこに入金する
・またその際に、結婚子育資金非課税申告書を金融機関に提出する
・受贈者は、結婚資金や子育資金の支払いが生じた場合、まず支払いを行い、領収書を金融機関に提出し払い出しを受ける流れも教育資金の一括贈与と同じ
・受贈者が50歳になると自動的に契約は終了し、口座に残額があれば贈与税の対象となる
・対象資金の用途は結婚式の挙式費用や新居の費用、妊娠・出産や幼年時までの育児に係るもの
・死亡した贈与者に係る資金残額は、相続財産として加算します。被相続人となる贈与者の死亡に係る相続税の課税対象となります。(法定相続人外への贈与であっても、当該資金残額については、相続税法第18条(相続税額の2割加算)は適用はありません。また、当該資金残額以外に相続税の課税対象となる取得財産がない場合には、相続税法第19条(相続開始前3年以内に贈与があった場合 の贈与加算)は適用しないこととなっています。)

親からもらった学費の贈与税を払った方、いますか?

上述の通り、教育資金であれば1500万円、結婚・子育資金であれば1000万円の贈与が非課税になる制度です。ある年に一括して祖父母が子どもに1500万円や1000万円を贈与し、贈与税が課税されるとしたらそれぞれ366万円と177万円になりますので、366万円あるいは177万円が無税になるのだとしたら、大きな節税のように感じるでしょう。

しかし、そもそもこの制度を利用しなくとも、大半の場合において教育資金や結婚・子育資金の贈与は課税されません。
どういうことでしょうか。

日本では大学に通った人の多くは両親や親族に学費を出してもらっています。それだけではなく、地方から東京の大学に出てきた学生は、教育資金の一括贈与の特例では対象外の学生中の生活費も下宿代を含めて出してもらっている場合が多いでしょう。在学中の学費や生活費のために年間110万円以上の贈与を受けたために、贈与税の申告や納税を行ったという方が世の中に何人いるでしょうか。ほぼいないはずです。
これは、世の中で脱税が横行しているという話ではなく、両親(祖父母も含みます)から子どもが生活費等で費消するために受け取るお金には贈与税が掛からないからなのです。

これは一般論というだけではなく、国税庁からも下記のように公式見解が発表されています。

[Q1-1] 扶養義務者(父母や祖父母)から生活費又は教育費の贈与を受けましたが、贈 与税の課税対象となりますか。

[A] 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるために贈与を受けた財産のうち 「通常必要と認められるもの」については、贈与税の課税対象となりません。

「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」より引用

ここの引用部にある「通常必要と認められるもの」の範囲は相当に広く、教育資金や結婚・子育資金の一括贈与の特例に関する単葉範囲は、ほぼ全て網羅しています。むしろ、一括贈与信託では使用使途に細かい制限があり、学費だけではなく下宿代や生活、遊興費も含まれるため、より範囲が広いといえるでしょう。習い事への月謝なども事実上制限はありません。つまり、祖父母が孫の教育資金や結婚・子育てのための資金を常識の範囲内で負担しても、最初から贈与税は掛からないのですから、わざわざ信託銀行に口座を開いたり申請書を作成したり、資金の引き出しに面倒な手続きをして、非課税制度を利用する必要が最初からないのです。

正確には、教育資金の一括贈与は、贈与者が亡くなっても相続財産に含まれませんので、相続税の課税がかかる資産を持っていて、受贈者が30歳になる前に亡くなる場合(多くの場合、祖父母が孫に贈与する場合)で、教育資金で使いきれる際には相続税対策として有効と言えるでしょう。
結婚・子育資金の一括贈与は相続財産にはなりませんから、相続税の節税という観点からはあまり意味はないと言えます。
このことを正しく理解している人は少ないと思われます。

正しい情報と正しい対策を

教育資金や結婚・子育資金の一括贈与の特例は、その特例を活用したからといって節税効果があるわけではありませんが、特別にデメリットもありません。デメリットを挙げるとすると、手続き等が面倒である、資金が信託口座に眠ってしまいお金の使用使途も限定されてしまう、長期間にわたり資金を寝かせることになり資産運用すれば得られるであろう利回りの期待損失が発生することなどが考えられます。
メリットは、上述の説明の通り節税メリットというよりは、祖父母から子どもへの大きなプレゼントとして両親・子どもに喜んでもらえる、資金の自由度がなくなる裏返しとして教育資金や結婚・子育資金があらかじめ確保でき安心感がある、ということなどが考えられます。
ですので、何か節税目的以外の理由があってこの制度を活用されたい方は構わないでしょう。例えば、子や孫に贈与をしたいけど気恥ずかしさなどもあり、節税を”言い訳”に贈与を行うという場合も多いといわれています。

しかし、節税メリットを目的に制度を活用するのであれば注意をしてください。金融機関はサービスを売りたいので無税も強調して説明するでしょうし、既に教育資金や結婚・子育資金の一括贈与を活用している人の中には、節税対策になると思っている人も相当数含まれていることと思います。
経済効果を十分に理解し、この制度を利用するのであれば特に問題はありませんが、「節税対策」として、金融機関や様々な事業者から積極的に受ける提案については、実害のあるデメリットやリスクを含む場合も多くあります。
相続対策は正しい情報に基づいて行っていきましょう。

残された家族の生活や絆を守るため、相続対策はとても重要です。無駄な争いの種を残さぬよう、遺言や分割対策を丁寧に行うことも大切ですし、お金のトラブルを残さないように相続税の納税資金対策も行っておく必要もあります。

特に日本は相続税率が高く、不動産や非上場株の比率が多く現金はあまりないという資産家の方にとって、納税資金は頭の痛い問題でしょう。そのため、様々な節税策に関心も抱きますし、銀行や証券会社などの金融機関や不動産会社を始めとした事業者などからサービスの提案を受ける機会も多いと思います。しかし、こういった提案の中には、確かに経済効果のあるものもあれば、金融機関のビジネスに有利になるための提案であったり自社のサービスを売り込むために都合のいいところだけを説明し、相続に悩む方に対しての最適な提案や正しい情報提供ではない場合もありますので、注意しながら十分に内容を理解するようにすることが大事な資産を守るためにも重要です。


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。* が付いている欄は必須項目です。
※運営者にのみメッセージを送りたい場合は、「管理者だけに表示」にチェックを入れてください。