2016年1月より開始されたマイナンバー制度の相続対策への影響
社会保障・税番号制度、いわゆる「マイナンバー制度」が2016年1月よりスタートしました。2015年10月以降、各家庭への通知が届いていたかと思います。マイナンバー制度は日本で各市区町村に住民票を置く全ての人が対象となる広範な制度であり、相続にも影響があります。
今回は、マイナンバー制度と相続の関わりを簡単にまとめます。
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そもそもマイナンバー制度とは
日本に居住する全ての人(住民票を持つ外国人も含む)に12桁の番号を交付し、国や地方自治体が税や社会保障などの情報を効率よく管理しようとする制度です。
マイナンバー制度により国家の個人情報の監視強化が騒がれますが、開始当初の影響は限定的なものです。まず「社会保障」「税」「災害対策」の分野での導入が先行します。そのため、しばらくの期間は個人番号に紐付いて蓄積されるデータは限られたものとなると考えられます。
制度の運用スケジュールとしては、2015年10月から各市区町村が全ての人に番号を順次通知し始めました。運用は2016年1月から開始となります。また、個人番号の記載された「マイナンバーカード」の交付も2016年1月から開始されます。
相続税への適用開始時期
2016年の1月1日以降、相続税をはじめとした各種税手続きにも影響があります。
【各種申告とマイナンバーの適用時期】
・相続税申告
2016年1月1日からの相続開始(死亡)の申告書に、被相続人と遺産相続した人の番号を記載する。(2015年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した財産に係る申告書には個人番号の記載は不要です。)
・贈与税申告
2016年1月1日からの贈与の受贈分の申告書に、受贈者の番号を記載
・所得税申告書
2016年1月1日からの所得に対する申告書に、申告者・控除対象配偶者・扶養義務者・事業専従者の番号を記載
・給与・年金等の源泉徴収票
2016年1月1日からの支払分に対する源泉徴収票に、支払者・受給者・控除対象配偶者・扶養義務者の番号を記載
・特定口座年間取引報告書
2016年1月1日からの上場株や投信の特定口座・内取引・配当などの報告書に、口座名義人の番号を記載
・保険会社支払調書(満期・年金・死亡など)
2016年1月1日からの支払分に対する支払調書に、保険金受取人と保険契約者の番号を記載
・配当金・分配金支払調書
2016年1月1日からの株式配当、投資信託分配金支払調書に、支払を受ける者、支払者の番号を記載
・金買取調書
2016年1月1日からの200万円以上買取分に対する買取調書に、売却者・買取者の番号を記載
・不動産の使用料等の支払調書
2016年1月1日からの事業者が支払う家賃・地代の支払調書に、支払を受ける者、支払者の番号を記載
相続への影響①〜マイナンバーで戸籍が不要に!?〜
マイナンバー適用は、戸籍に対しても予定されています。そのため、将来的には、現在相続の際に行われている、出生から死亡までの連続戸籍取得や除籍謄本の取得等もマイナンバーに基づいて行える様になる可能性があります。
相続手続きの場合には特に、財産の名義変更や各種手続きで戸籍の提示を求められる機会が多いため、相続人が相続開始後に大量の戸籍を手間や費用をかけて収集しなければならないという煩雑さがありました。この様な手続き上の負担は大幅に軽減されることが期待できます。
相続への影響②〜財産の一元調査が可能に〜
また、マイナンバーの始動により、新たな相続トラブルの可能性が指摘されています。当面、マイナンバーの適用は「社会保障」「税」「災害対策」の分野での導入が先行されます。前述の通り、この時点では手続き面を除けばそれほど大きな影響は生じません。
しかし、先行3分野の次に予定されている、「預貯金口座」「医療」へのマイナンバー適用がスタートした場合、大きな変化が生まれる可能性があります。
例えば預金口座や証券口座のマイナンバー管理が進めば、これまでは事実上難しかった預金口座の一元調査も容易になります。現状では、納税者の金融機関口座情報の把握は税務署のような権限の強い機関でも、各金融機関に個別に問い合わせをするしかなく、一元調査は難しい状況にありました。
さらに、マイナンバーは故人の家族情報も同時に照らし合わせるようなことが可能なため、所得税や贈与税など複数のデータとも照らし合わせれば、故人のお金の出入りの詳細な把握も可能となります。
故人の財産情報の不足によるトラブルが減る反面、「誰それだけは生前にたくさんお金を貰っているので相続時は遠慮しろ」など遺産の分割に関するトラブルが増えるかもしれません。
当然、資産隠しや資産分散はバレやすくなります
まず、「マイナンバーで口座情報がバレるから大変なことになる」と言って心配する人は、資産隠し等の意図がある人で、公明正大に税務申告をしようとしている国民には実害はありません。
うまく悪いことをした人が得をするということがなくなるわけですから、まっとうな納税者にとっては世の中が公正化されるということで、必要以上に心配はいりません。
(もっとも、ミスを発見されることや、相続税で家族も知らなかった口座が見つかる、ということはあるでしょうが。)
ただ、上述の様な相続人の間柄の話に限らず、税務署自体が確実な相続財産の把握にマイナンバーを活用することになります。そのため、金融機関口座を通じた資産の状況は明確に調査されるようになるでしょう。
例えば、以下のような傾向のある方は税務署に目をつけられる可能性が高くなります。これらはマイナンバー導入前でもチェックされやすい事項ですが、これらがより容易に税務署に把握されるようになる、ということになりますので、適正に事前の確認や対策が望ましいでしょう。
●贈与の際に、金融機関を分散した
例えば、子に60万円ずつ3つの銀行口座に贈与した場合、名寄せで180万円の贈与が把握され、贈与税の申告漏れを指摘される可能性があります。
●収入に対して金融資産が多い、こっそりと副業収入を貯めている
例えば専業主婦の方など、過去の収入が少なくとも金融資産が多い場合があります。なお、隠し口座でのへそくりも相続財産になりますのでご注意ください。これまでは難しかった副業収入を日常使っている銀行口座と分けても容易に把握されるようになります。
●収入に対して申告した相続財産が少ない
被相続人は過去の収入が多かったのに、申告した財産が少ないような場合は親族の別口座に財産が移っていないか疑われることがあります。
●生前贈与をしている
生前贈与を毎年行うことは、名義預金と指摘されやすい行為です。贈与者・受贈者の双方の贈与の意思があること、通帳の管理は受贈者が行うなど、適正な贈与だと説明できるよう準備が大切です。
●国外への送金や預金をしている
これらの送金状況も把握されるため、国外への資産隠しも全て申告漏れの指摘を受けることもあり得ます。
*なお、マイナンバーとは別に、世界中の納税者の特定を各国が共有するGATCA自動的情報交換制度(Automatic Exchange of Information)が近いうちに開始し、海外金融機関を経由した取引は全て国税庁へ情報が流れることになります。
税理士を選ぶにも、マイナンバー対策を徹底しているかが肝になる?
以上のように、相続・相続税に関して長期的に大きな影響が予測されるマイナンバーですが、今後税理士を選ぶ際の注意点にも気を配る必要があります。
税務申告にあたっては、当然マイナンバーを税理士に伝えることになります。しかし、万が一マイナンバーが漏えいすると行政手続きのなりすまし犯罪など様々な被害を被る可能性があります。そのため、税理士選定の際には、相続や贈与に詳しい税理士であることはもちろんのこと、情報管理・漏洩対策がしっかりと行われているということも、今後ますます重要となるでしょう。