進む国税庁による富裕層への監視強化


日本の税制は、法人税は減税、所得税や相続税という個人課税は増税という流れになっています。
個人課税の強化に伴い、国税当局による富裕層への課税とそのための監視の強化が進んでいると言われています。

日本は諸外国に比較して、富裕層に対する相続税が高い国です。相続税が掛からないという国もたくさんあるのですが、日本では超過累進課税で6億円超の相続財産には55%もの税率が掛かります。そのため、富裕層の節税対策への関心は高くもなり、一部では、租税回避行為をしたり、監視の目が行きにくいよう資産の国外移転をしたりする人もいます。
そういった一部の富裕層の動きに対し、国税庁などの課税当局は目を光らせています。

今回の記事では、富裕層の財産状況監視のための国税当局の動きをお届けします。

諸外国に比較して高い日本相続税

日本での相続税の税制は、基礎控除額(3000万円+600万円×相続人数)を除いた相続財産額に、所定の税率をかけて求められ、その税率は最高で55%となります(基礎控除を除いた相続財産を法定相続分で分け、その金額が6億円を超える場合)。
平成27年度の税制改正では、国外転出時課税制度(出国時課税制度)が設けられ、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする日本の居住者が1億円以上の対象資産を所有等しているなどの場合には、その対象資産における株式等の「含み益」に所得税及び復興特別所得税が課税されることとなりました。

一方で諸外国の相続税を見てみますと、例えばアメリカやイギリスであれば最高税率は40%しかありません。相続税率が高めのフランスでも最高税率は45%ですし、少なめのドイツに至っては最高税率でも30%しかありません。
シンガポールや香港、マレーシアやオーストラリア、カナダなどの国々では相続税が掛かりません。

【参考:基礎控除の例】
アメリア:500万ドル(約5.5億円)
イギリス:32万5000ポンド(約5200万円)
フランス:10万ユーロ(1220万円)
ドイツ:配偶者50万ユーロ(約6100万円)、子4000万ユーロ(約4880万円)
(1ドル=110円、1ポンド160円、1ユーロ122円として計算)

【参考:中小企業庁 諸外国の相続・贈与税、事業承継税制等】

こうして比べると、相続税の課税が多い日本では、納税者の心境として、節税に関して関心が高まるのが自然なことにも思えます。

富裕層の監視強化〜重点管理名簿の作成〜

国税庁は、職員向けに税務調査の事務マニュアルに当たる「個人課税事務提要(事務手続編)」という文書を作成しています。
その中で大口資産家の選定基準も定められており、直近で行われている富裕層への監視強化の動きの1つは、「重点管理富裕層名簿」の作成と言われています。国税庁は監視対象とする富裕層を「重点管理富裕層」と定義し、そこに指定された人の収入や資産の移動は特に注意深く監視しようというものです。まず東京、大阪、名古屋国税局で先行して進められてきたのですが、2015度から全国的この名簿の作成と監視強化が行われているようです。

この「重点管理富裕層」の定義ですが、①形式基準と②実質基準のいずれかに該当すると対象となります。
形式基準は、その人が保有していると思われる資産額が特に大きい富裕層です。具体的にいくら以上からなのかは公表されていませんが、日経新聞の2015年9月3日付の記事「国税照準「富裕層2万人」 10のマル秘選定基準 課税強化でにらみ合い」では、日経記者により複数の国税OBらへの取材がされ、以下の「10の選定基準」が挙げられています。同記事では、税務署では大口資産家の資産状況などの資料を「継続2管理事案」という区分で管理し、「継2(けいに)」と呼ぶ『個人調査ファイル』を作り、資産状況や資金の流れを厳密に管理している。東京都心なら1税務署当たり500件以上はあるはずだという国税OBの声も掲載されています。

【参考:大口投資家の主な選定基準】
①有価証券の年間配当4000万円以上
②所有株式800万株(口)以上
③貸金の貸付元本1億円以上
④貸家などの不動産所得1億円以上
⑤所得合計額1億円以上
⑥譲渡所得及び山林所得の収入金額10億円以上
⑦取得資産4億円以上
相続などの取得財産5億円以上
⑨非上場株式の譲渡収入10億円以上、または上々株式の譲渡所得1億円以上かつ45歳以上の者
⑩継続的または大口の海外取引がある者、または①〜⑨の該当者で海外取引がある者

実質基準は財産規模自体は形式的基準を満たすほどではないものの、一定以上の資産を保有し海外への資産隠しなど、国際的租税回避行為その他の富裕層固有の問題が想定される場合です。要は税金逃れの問題発生の可能性が高いとされ、重点管理富裕層として特に指定する必要があると認められる人が対象になります。

国税庁では、国内外に数十億円規模の資産を持つ「超富裕層」については、2014年7月から東京、大阪、名古屋の各国税局に専門チームを設置し、部門を横断して情報を収集しています。

重点監視富裕層への監視内容

重点管理富裕層へと指定された場合に、どのように監視されるのかについても確認しましょう。

まず、監視対象となるのは重点管理富裕層本人のみではありません。家族や親族等の所有する法人へ財産を移す際の贈与税逃れや相続税逃れを防止するために、重点管理富裕層の下記のような関係者の財産状況も監視対象となります。

・関連個人
家族など、管理対象者と特に密接な関係にあると思われる人間
・基幹法人
管理退所者が所有、あるいは主宰する法人の中で特に中心的な存在となる法人
・関連法人
基幹法人以外の法人で、管理対象者や基幹法人と特に密接な関係にあると思われる法人

つまり、家族や親族、あるいはご自身が経営する会社なども監視対象に含まれると思った方が良いでしょう。

また、重点管理富裕層に指定された後ですが、富裕層はA/B/Cの3つの区分に分けられ、Aに指定された富裕層には実際に調査が計画されることになります。

・A区分
既に課税上の問題が見受けられており、調査企画着手の対象とするべきと思われるもの(調査することが前提の人)
・B区分
具体的な課税上の問題が指摘されるわけではないが、多額の資産を異動しているなど注視の必要があると思われるもの(調査する可能性がある人)
・C区分
A区分、B 区分には当てはまらないが、監視が必要と思われるもの(様子を見る人)

税務署は、「確定申告書」や「財産債務明細書」、金融機関等から提出される「支払調書」などの各種情報を収集しデータベースを作成しています。そこで、保有資産の収益性や流動性が高い個人は重点対象としてリストアップされ、「7年一巡」を目安に税務調査にも当たります。

特に2016年からは財産債務調書の提出も始まりました今後も国税当局における富裕層への監視強化の動きは進んでいくものと思われます。


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