年間3500万円、ガン治療薬高額化の理由?


近年、がんの治療薬は効果が高いものほど高額になる傾向にあります。このことは国の医療保険制度に大きな影響を与えるとともに、個人に対しても自分や家族の健康と生活を守るために、医療・がん保険や貯蓄などの形でいざという時の備えをする必要性を高めています。

超高額な夢の新薬「オプジーボ」

2014年に小野薬品工業から発売された新薬「オプジーボ(ニボルマブ)」に対して2つの面から注目が集まっています。
1つは「夢の新薬」と呼ぶに相応しい治療効果の高さによって、
もう1つは「超高額」とも言える薬価によってです。

まず治療効果についてです。
一般的にがん治療に用いられる薬剤=抗がん剤は、がん細胞を攻撃し死滅させる薬剤です。がんを死滅させる効果が高いものの、がん細胞以外の元気な細胞まで攻撃してしまうため、副作用の強さが問題視されてきました。抗がん剤は、特に分裂の活発な細胞に対して影響を与えるため、粘膜や毛根の細胞などにも影響を与え口内や消化器官などからの粘膜出血や脱毛などの副作用を生じさせてきました。

しかし、オプジーボの治療効果は抗がん剤とは全く異なり、免疫療法と呼ばれるものになります。
本来、身体の中に異常な細胞が発生した場合、体内の免疫細胞がそれを駆逐してくれます。しかしガン細胞がその表面に「PD-L1」と呼ばれる分子が存在し、その分子が免疫細胞の中でも基幹的な役割を果たすT細胞に作用して、ガン細胞に対する免疫効果をなくさせてしまうのです。
そして、オプジーボの薬効は、がん細胞のPD-L1がT細胞に影響を与えることを防いでくれます。そのため、体内の免疫細胞によるがん細胞への攻撃機能が失われません。その結果、本人の免疫力によってがんが駆逐されていくのです。

抗がん剤のように細胞を攻撃する薬効ではないので、他の細胞を攻撃してしまうような副作用も生じません。まさに夢の新薬と言えるでしょう。
手術による切除が難しい部位にあるがんの治療にも効果が確認されており、オプジーボの開発は2013年に米科学誌サイエンスによってその年の10大科学ニュースにも選出されました。

【参考】
がん細胞に壁、免疫力保つ 新薬「オプジーボ」保険適用拡大 副作用少ない「第4の治療法」へ

あまりにも高額なオブジーボの値段

オブジーボはもともと悪性黒色腫という希少がんのみを対象に健康保険の適用を受けて登場しました。しかし、2015年には肺がん患者の治療にも健康保険の適用を受け、利用が広がっています。
そのこと自体は多くのがん患者に希望を与えるニュースなのですが、問題はその値段です。

オプジーボはその値段が非常に高く、平均的な成人男性の場合1回の投薬にかかる費用は約133万円、2週間に1度投薬すると年間で3500万円以上の費用がかかるのです。
日本には「高額療養費制度」が存在しますので、健康保険適用の治療にこの薬を使う分には患者の自己負担はそこまで大きくはなりません。数万円から10万円強の範囲内です。しかし、その分の費用を健康保険組合が負担することになるため、今後の制度維持に不安が持たれています。

がん治療薬高額化の理由

がんの治療薬の高額化傾向はオプジーボに限りません。その他のがん治療薬も高額化の傾向にあります。
その大きな理由なのですが、新薬を開発するのに必要な時間と費用が高騰していることと、より効果の高い薬剤の開発を狙って患者数の少ない希少疾患に対しても薬剤の開発が行われているからです。

今回取り上げたオプシーボは、実際に患者さんに投与できるまで15年以上もの開発を要しました。その分開発費用にも莫大な費用が投入されています。当然、製薬メーカーとしてはその費用を回収しなければなりません。
なお、オプジーボの開発元である小野薬品の売上高に対する研究開発費比率は30%ほどであり、これは国内の製薬メーカーではダントツの数字です。

【参考】
15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬

また、以前はそれほど通目されていなかった希少疾患向けの薬剤の開発が行われていることも、薬価高騰の理由の1つと言われています。当然希少疾患に対してはその疾患専用の薬剤を開発したほうが効果は高まるのですが、対象となる患者数が少ないだけに、どうしても薬剤の単価は上がってしまうのです。

医療制度の変更や個人の備え

このような薬剤開発や薬価高騰の現状を受けて、医療費の急増と制度破綻を回避しようと国も様々な試みを行っています。
例えば、2016年度に「特例拡大再算定」という制度が急遽導入されました。これは年間販売額が1000億円を超えるようなヒット新薬に対して、その価格を最大で50%抑えられるという制度です。既に複数の薬剤が対象となっており、30%ほどその薬価を引き下げられました。しかし、製薬業界の反発が大きく、運用に注意が必要な制度と言えます。

また、そのほかに試行導入されたのが「費用対効果評価」という指標です。これはまずQALY(クオリー)という単位を定め、その意味を1年元気で生きられる1QALYとしています。そして、がん患者などが、1QALYを得るのにかかる費用を持って薬剤や治療法の効果検証を行おうという試みです。
既に日本以外の国では導入が進んでいる制度なのですが、1QALYあたりの費用は高くとも患者から求められている薬剤というのもあるため、やはり運用は難しい制度です。

過去のアンケートなどから1QALYあたり500万円〜600万円が目安とされていますが、当然この金額はその人の価値観や資産状況によって大きく変わるでしょう。
この制度の導入が進めば効果と費用の両方が高い薬剤は健康保険の対象から外れることも考えられるため、個人はそうしたことも意識して保険の加入や貯蓄などのファイナンシャルプランニングを考える必要があります。


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