相続税の税務調査はどうやって対象者を見つけているのか


多くの納税者は相続税の申告や納税をした後に税務署との間にトラブルを起こすような事態は望んでいないと思われます。しかし、残念ながら相続税の税務調査の対象となる割合は少なくなく、相続税の申告件数に対して約20~30%ほどに税務調査が行われています。さらに、税務調査が入ったうちの約80%では追徴課税が行われています。
これは、税務署が事前に追徴できるであろうという「当たり」を付けてから実地調査に着手するためです。
どのような納税者が税務署の調査対象になりやすいのでしょうか。
今回の記事では、相続税申告ではどの程度の規模で税務調査が行われているのか、どのような人がその対象になりやすいのかの概要についてお届けします。

執筆者:伊藤英佑(伊藤会計事務所 代表)

税務調査のあらまし

相続税の申告及び納税は、相続の開始(被相続人の死亡と自身が相続人であることを知った日)から10ヶ月以内に、相続人自身が遺産総額と納税額を申告し税金を納めるという流れで行われます。相続税は、生涯での発生頻度も少なく、税法の体系が複雑で例外規定も多いため誤りが起きやすいことにより、税金を過剰に申告してしまうことや、逆に、相続人が被相続人(故人)の財産を把握し切れていないことも多いことから、財産漏れ等により過少申告してしまうことも少なくありません。悪意を持って意図的に過少申告する人もいるでしょう。

税務署は、相続税の申告書を受領した後にその申告が適切であったのかを調査し、その結果、財産評価や税額計算の誤りや財産漏れ等の問題がある可能性が高いとなれば相続人への税務調査を実施します。税務調査の結果、過少申告が認定されると、申告内容の修正を促し、あるいは正しい追加税額を通知する更正という手続きを行います。
なお、本来であれば過剰納税も更正の対象となるのですが、税務署から教えてくれることはないと思っておいて良いでしょう。納税者が後で過剰納税に気付いた場合は、法定申告期限から5年以内であれば、更生の請求という手続きを行い、税務署に認められると還付を得られる場合があります。

相続税の税務調査の対象となる人の数

実際にどの程度の規模で税務調査が行われているのかを見ていきましょう。国税庁の発表資料によれば、平成26年の相続税の納税件数は全国で56,239件になります。そして、平成26年中に行われた相続税の税務調査の件数は12,406件と約20%もの件数がその対象になっています。なお、平成27年は基礎控除引き下げにより、相続税の納税件数は1.5倍程度になっていると思われます。
通常、相続税の税務調査は申告書提出から1年〜2年後に行われます。そのため、平成26年度に行われた税務調査の大半は平成24年前後の年度の相続税申告に対応していますが、この間の納税件数に大きな差がないため、納税件数のおよそ20%の件数が税務調査の対象になっているとご理解ください。

また、税務調査が実施された後に、実際に過少申告などの非違が発見された件数は10,151件と、何と80%を超えています。つまり、税務署はそれなりに過少申告が行われているという確信を掴んでから、税務調査の実地調査を行っていることが読み取れます。どの程度の過少申告があるのかについては、相続財産額にして3,296億円の過少申告が認められました。つまり過少申告を認定された人は1人平均で約3,246万円分の過少申告があるとされたのです。

【参考】
平成26事務年度における相続税の調査の状況について
平成26年分の相続税の申告状況について

税務調査の対象者の見つけ方

上記のように税務署はかなりの確度で税務調査の対象者を割り出しているのですが、どのように対象者の選定を行っているのでしょうか。
税務署は相続が発生する前段階から、生前の所得税申告内容・証券取引・不動産保有の状況等の情報収集をしています(税務署は金融取引や不動産取引を随時チェックをしています)。また、一定以上の資産が見込まれる富裕層を「重点管理富裕層」と位置づけ、課税の公平を保つためにも、多岐に資産がわたる富裕層を管理しています。
国税OBの話によると、遺産総額の金額の階級ごとに税務調査件数のノルマが決まっているようなことはなく、必ずしも遺産総額が大きい順に税務調査が選定されるわけではないようですが、やはり高額遺産の事案は優先されるのは事実のようです。

その方法としては、国税総合管理システム(KSKシステム)と呼ばれるデータベースとの照らし合わせと、担当する調査官やその統括官の経験則によって行われています。

KSKシステムは、これは国民1人1人の過去の所得税に基づく過去の収入などの情報や、当局が可能な限り集めた資産の購入・売却履歴が記録されたデータベースになります。この記録により、ある程度、1人1人の遺産総額の目安が立てられるのです。特に税務署は富裕層の課税逃れに敏感なため、富裕層に関するデータは念入りに収集し、データベースを確かなものにしています。財産債務調書制度国外財産調書制度も富裕層の財産把握の一環です。
なお、これらのデータベースとの照らし合わせは相続税の申告を受け付ける前に、区市町村から死亡の通知が届いた時点で行われ、相続税の発生可能性が高い場合には「相続についてのお尋ね」という相続税の申告と納税を促す書類が税務署から相続人に送られます。
「お尋ね」は、相続日からおよそ半年ほど経ってから相続人が受け取り、その時に始めて相続税の申告の必要性を意識する人もいますが、申告期限である相続日から10か月の期限が間近の状況だと、ミスやトラブルも起きやすくなります。やはり事前の対策や準備が重要です。

また、税務署の資産課税専門の調査官らによるチェックについては、主に上記のKSKシステムのデータと、相続税の申告書を照らし合わせて行われます。そうした照らし合わせを行ってみて、不審な点があれば税務調査として金融機関などへの照会等の調査を開始し、資金移動を含めた口座情報から相当に怪しいと思われる相手に対して実地調査として相手宅に訪問し聞き取り調査や財産調査などを行うのです。
税務署は、特に預金や有価証券(「不表現資産」と呼びます)の申告漏れには目を光らせています。税務署は金融機関に対して口座情報の問い合わせが出来ますので、国税OBによると申告者の全員の情報を調べるわけではないようですが、相続人が口座の存在を知らなかった場合も含め、銀行や証券会社の口座情報の申告漏れは見つけられる可能性が高いと思っておいた方が良いでしょう。
また、相続税のルールでは、適正な生前贈与や権利移転をしておらず夫の収入により形成された妻名義の預金は「名義預金」と言って夫の相続財産になります。相続人である妻は自分の財産という認識があり相続財産に含めて申告しない場合も多く、相続税の税務調査は、この「名義預金」の申告漏れの指摘により追徴課税が行われることが多くなっています。

なお、現在はまだ実用化されていませんが、2016年から運用開始が始まったマイナンバーは、数年後には既存のものも含めて預金口座や証券口座との紐付けが行われる予定です。マイナンバーと金融機関の財産情報の紐付けは税務調査にも利用され、今以上の確度で財産漏れの調査が行われることになるでしょう。

預金や有価証券の次に多いのは、相続税申告での肝にもなる不動産の評価です。
専門的な話になりますので個別には申告を依頼する税理士に相談する内容になりますが、奥行価格補正・不整形地の補正率の誤り、借地権の控除誤り、一律ではない広大地の適用基準の見解の相違などが、よくある評価誤りです。
これは、現地調査が不十分であったり、税法ルールの適用誤り等で、税理士のミスも生じやすいところになります。

税務の世界は必ずしも一律に決まるものでもないグレーゾーンも多く、税務調査官の対応も個々に異なりますので、財産状況を踏まえ、どのような方針で進めるかも含め、きちんと準備と対策をしながら、専門家と十分なコミュニケーションを取り、適切な対応をしていくことが重要でしょう。

【執筆者プロフィール】
伊藤英佑

伊藤会計事務所(所在地:東京都世田谷区駒沢) 代表 公認会計士・税理士
・早稲田大学政治経済学部卒、大手監査法人を経て、2005年に伊藤会計事務所開業(現任)、ベンチャー企業の支援業務及び資産管理サービスを行う
・複数のベンチャー企業(上場企業を含む)の非常勤・社外役員も歴任。資本政策、IPO、M&Aに強い
資産管理サービスは、資産管理会社の運営支援、相続税・法人税・所得税等の税金対策及び税務申告、資産活用全般やライフプラン向上を見据えた総合的なコンサルティングやフィナンシャルサービス等を個人・法人へ提供している
・長期分散投資を志向した資産運用も自ら行っており長年の経験がある
・早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了、AFP(ファイナンシャルプランナー)保有

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