個人投資家にも参考になるGPIFの運用動向


2016年は9月時点で、年初より為替が円高になり、日経平均も年初より下落しています。ニュースや新聞では、公的年金基金を運用する年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の運用損が取り沙汰されることが多くなりました。例えば、7月に公開された2015年度の決算は約5.3兆円、-3.81%の運用損となっています。
ただ、GPIFの運用自体がずっと不調というわけではありません。むしろ自主運用が開始された2001年以降の実績では、年平均で2.7%の運用益を積み重ねています。同じ期間の配当込みのTOPIXの運用益が年平均で2.0%だったことを思えば十分誇って良い実績と言えるでしょう。リスク資産を運用し利回りを追及することは、そもそもの運用の資産配分やポートフォリオの妥当性は議論してしかるべきですが、単年度で損失を出したこと自体を問題にすることでは適切な議論は深まりません。

今回の記事ではその巨大さから注目されることも多いGPIFの好成績の秘密や、今後の運用動向、それに個人として学べるポイントについて見ていきたいと思います。

平均収益率年2.7%のGPIF

まずGPIF=年金積立金管理運用独立法人がどういった組織なのかおさらいしてみましょう。
日本の全国民は国民年金への加入が義務付けられており、20歳から60歳まで国民年金に加入した人は60歳で保険料を納め終わり(平成28年度は月々16,260円。保険料は平成29年度まで年々段階的に上がっています)、年金の支給は65歳から始まります(平成28年4月分からの年金額は780,100円(満額))。会社員は給与等からの天引きを通じて厚生年金とともに国民年金も納めていることになります。この支払ってから受け取るまでのタイムラグがありますので、そのお金を有効に増やすために資産運用を担っているのがGPIFです。

GPIFの位置付けは、厚生労働省に所管される独立行政法人です。その目的は日本の公的年金の積立と運用であり、国民年金と厚生年金を担当しています(共済年金は含みません)。
日本に限らず世界中で政府系の年金ファンドはその規模感から大きな存在感を放っていますが、日本のGPIFも巨大プレイヤーです。2015年度末の運用資産残高は134兆7,475億円、(最新の2016年6月末の運用資産は129兆7,012億円)に達し、これはアメリカ合衆国の社会保障年金信託基金に次ぐ世界第2位の資産規模です。
2000年以前、年金の運用は年金福祉事業団が行っていましたが、第2次橋本内閣が進めた特殊法人改革によって2001年から現在のような形で運用を行っています。

運用のポートフォリオも公開されていますが、年金を預かるという性質から、リスクを抑えつつ、一定の運用益を狙えるよう2014年10月までは国内債券(約60%)が運用の中心でした。その他は国内株式・外国株式・外国債券が約10%今日ずつ、その他の短期資産が数%という内容です。
冒頭で2001年以降の運用利回りがTOPIXよりも好成績であったと触れましたが、この期間は日本国内に限れば国債などの債券を組み込んだ運用が優位だったという話になります。

ただ、この状況には変化が生じました。2012年末の安倍内閣発足以降、経済のデフレからの脱却は今まで以上に経済政策上の重要テーマとされ、金融政策も歩調を合わせ、様々な量的緩和政策がとられます。国債の利回りである長期金利が下落し、債券での運用では一定の運用利回りを維持することが難しくなってしまったのです。
そのため、GPIFは運用方針の見直しを進めました。特に2016年にはマイナス金利制作の影響で、長期金利もマイナスとなっています。

現在行われている運用方針の見直し(リバランス)

債券から株式へのリバランス

2014年10月にGPIFは運用資産構成比率の大幅な変更を行いました。新しい資産配分は、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%です。これまで60%が国内債券で、国内株式と外国株式の合計は20%強でしかなかったのが、国内株式と外国株式の合計だけで50%となります。
年金制度維持のためには、平均年間利回り1.7%を維持する必要があると言われており、現在の低金利下では債券による運用だけで1.7%の利回り目標を達成することが難しいと判断されたと言うことでしょう。

もちろんこうした運用内容のリバランスにはリスクも伴います。事実として、2015年は運用構成における株式の比率が増えたため、年間収益のマイナスが拡大してしまった側面はあるでしょう。しかし、株式での運用において、短期的な損失の発生は仕方ない部分もあり、今後の長期的な運用結果を注目する必要があります。

巨額の運用資金を擁するGPIFの運用の主体が債券から株式へのスライドしたことは、個人投資家にとっては重要な意味を持つようになりました。2015年末の時点で、22%だった国内株式の比率を25%にリバランスさせる場合、約4兆円分の日本株の買い増し余力があるからです。この規模の金額であれば、相場へ与える影響も大きなものになるでしょう。

低コストの運用重視

GPIFの運用方針に関してもう一点注目するべき点は、運用コスト削減の重視です。国内株式、外国株式の多くは、株価指数などとの連動を目指す低コストのETFを用いて運用されています。個別銘柄ではなく日経平均などの指数(インデックス)に沿うような運用をパッシブ運用、積極的に銘柄を選択し売買を繰り返し指数を超過する運用を目指すのをアクティブ運用と言いますが、パッシブ運用の方がETFの活用によってコストが抑えられる点や、アクティブな運用でインデックスに勝つのは卓越した手腕が必要で難しいなどの理由によります。

個人の資産運用として学ぶべきか否か

上記のようなGPIFの運用から個人が参考にできる点ですが、まずは現状の金利環境下で国内債券中心の運用で収益を狙うのは難しいという前提は共有した方が良いでしょう。もちろん積極的に利回りを狙う必要が無いのであれば債券中心の運用を検討することになります。しかし、長期的に年3~4%以上前後の利回りを狙おうという場合、債券以外の資産での運用が必要になります。
また、資産運用を行う場合には手数料などのコストにも注意を払う点も重要です。手数料などのコストがそのまま運用利回りを引き下げるため低コストでの運用は個人投資家の長期運用にとって非常に重要です。。

株式で運用する場合の注意点として、急な暴落に耐えられるような余裕資金の確保を行っておきましょう。金融市場では株式にはどうしても暴落のリスクがありますが、一時的な評価損が生じてもその後市場が回復するまで長期運用を行うことができればダメージを回復させることができます。暴落して株式が割安の時に投資を実行できれば投資リターンも高まりますが、余裕資金がないと投資したくても出来なくなります。
例えば生活資金を資産運用に回していた場合、タイミングによっては暴落のタイミングでまとまった出費により資産を現金化せざるえない場合もあります。そのようなことを避けるために、余裕資金の確保が重要になるのです。
GPIFの場合、そもそも日本の年金制度は賦課方式(現役世代が支払った年金が、そのまま受給世代への支給となる)を採用しています。そのため、現在運用中の積立資金のほとんどが余裕資金とも言え、制度上は短期的な損失を抱えても年金制度の維持に支障はきたさないのです。そのような構造だからこそ、積極的に株式での運用も可能なのだとも言えるでしょう。
ただ、将来的に少子高齢化で賦課方式で支払われるお金が目減りしていく中、運用に失敗すると、現役世代の年金受給には大いに影響があることが想定されます。
長期運用という観点から、個人もGPIFの運用方法は知っておくべき点と言えます。

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