10年で3割増加、財産規模に関係なしに発生する相続争いとその防ぎ方


家族・兄弟間や親族同士で遺産分割を巡って争い合う相続争い(争続)の増加が問題視されています。
2015年にはそのものずばり「遺産争族」というタイトルのドラマまで放映されましたが、実際に相続争いは増加しており、ここ10年で家庭裁判所の遺産分割事件数は1万件強から1万5千件前後へと実に3割強も増加しました。

なぜ相続争いが増えたのか、実際に相続争いが発生するとどのような不利益を被ってしまうのか、そして相続争いを防ぐためにはどうすれば良いのかについて迫ってみます。

相続争い増加の現状とその防ぎ方

冒頭にもお伝えしたように、相続争いの件数は明確な増加傾向にあります。なお一般的な相続争いのイメージとしては、小説「犬神家の一族」のように大富豪の相続争いを想像する人が多いかもしれません。しかし現代の相続争いの特徴は財産規模に関係なく発生しています。むしろ、全体の割合では資産額1000万円以下が32%、1000~5000万円が43%ですから、富裕層ではない一般家庭でも十分に発生していることが窺えます。
下記は2014年に家庭裁判所に持ち込まれた相続争い事件の遺産規模別割合件数です(司法統計から作成)。

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ご覧になっていただければわかる通り、遺産総額が1000万円以下や1000万円超から5000万円以下という事件数が多く、必ずしも遺産規模が多くなくとも相続争いは発生しているのです。
ある弁護士の話では、1000万円強ほどの遺産の分割を巡って兄弟同士が10年以上も裁判を起こして争い続けているような事件もあるとのことです。

なお、このグラフだけ見ますと遺産総額が少ない方が、相続争いが「発生しやすい」ように感じます。しかし、遺産総額の多い相続は、そもそも母数が少ない点にご注意ください。2014年に亡くなった人の相続に関して言えば、相続税が発生する規模の相続(当時は5000万円及び法定相続人人数 × 1000万円の基礎控除以上の遺産のある相続)は、全体の4.4%しかありません。
多少の偏りが生じたとしても、起こる時は、遺産規模に関係なく相続争いは起こりうるのです。

【参考】
平成26年分の相続税の申告状況について

相続争い発生の問題点

相続争いが発生することのデメリットを具体的に考えてみましょう。まず一番は人間関係が極度に悪化することです。既に関係が悪いので係争になるケースが多いでしょうが、決定的に関係が悪化すると言えるでしょう。これは相続争いを見てきた弁護士・司法書士・税理士等の皆が口を揃えて言うことなのですが、遺産分割の話し合いがこじれて家庭裁判所にまで持ち込まれた場合、そもそも関係が悪くコミュニケーションもうまくいかないので裁判になるのでしょうが、その後の人間関係の修復は絶望的です。
育った環境に現在の境遇までの過去の行きさつ、遺産規模や価値観によるのかもしれませんが、相続争いを起こす相手は兄弟や親戚などであり、仮に相続争いに勝てたとして得られる金額が破綻した人間関係に見合うのかは冷静に見つめ直した方が良いかもしれません。
裁判を続けるということは心情的にも相当なストレスを抱えることになります。

上記のような内面的な事柄以外に、お金の問題も発生します。裁判費用もタダではなく弁護士費用は馬鹿にできません。1000万円の遺産の分割を巡って10年以上争う兄弟の例を出しましたが、ここまで来てしまうとこれまでの費用のためにどのような決着を迎えても累積では双方損をしてしまうと思われます。

また、相続税の申告時には、申告期限内までの申告書を提出することで相続税を引き下げられるような幾つかの特例措置が設けられていますが、これらの特例のほとんどは相続発生後から10ヶ月以内に遺産分割が終了していなければ享受することができません(いったん申告書を提出し、期限後に再度申告することも出来ますが、ここでは省略します)。相続争いが発生していてはこのような税金面でも不利になってしまうのです。

相続争いの原因

どうしてこんなにも相続争いが増加してしまっているのか、その理由を見ていきましょう。

生活費の逼迫

これは遺産規模が少ない相続でよく指摘される理由なのですが、1990年代のバブル崩壊以降低迷を続ける日本経済によって、生活費が逼迫し老後資金を蓄えることができていない家庭が増えているためです。相続財産を予想外の収入ではなく、必要な生活資金や老後資金として当てにしているため、少しでも多く遺産が欲しいという心理が働いてしまうのです。生活が逼迫しているほど、死活問題になり、妥協点も見いだしずらくなります。

長男相続への抵抗

その他に、長男相続への抵抗が挙げられます。戦前まで日本は家制度が重視されており、旧民法においては家督制度が健在でした。そのため現代のような兄弟は遺産を平等に分割するという法定相続分の概念はなく、家督を継ぐ人間(大半は長男)が遺産のほとんどを受け継いでいたのです。
この制度は戦後に廃止され、既に廃止からも相当時間が経過していますが、日本での古くからの慣習として、戦前に生まれた人やその子世代ではまだこのような考え方が残っている人も大勢います。しかし、逆にその世代であっても(当たり前ですが長男以外の人は)現代的な兄弟平等の相続を主張することが多く、意見の分裂を招きやすいのです。

不動産の分割

また相続争いを生み出してしまいがちな要因の1つに日本人の財産構成の特徴の問題もあります。日本人は特に富裕層ほど相続財産において不動産や非上場の自社株など分けることが難しい財産額の割合が大きいという資産家が多いのです。現預金であればその分割は簡単ですが不動産や自社株の場合は簡単ではありません。不動産は物理的に分割が困難ですし、自社株の場合は株数により分割自体は出来たとしてもその後の議決権割合に基づく経営権の集約や事業運営に支障をきたす可能性が高くなります。

こうした一部の財産については後継者を決めてその人に集約させることを希望する被相続人や後継者候補が多のですが、他の相続人が財産額に基づき自分の権利を主張してくることがあり、そうなってしまうと、揉め事に発展しやすくなります。

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介護などの特別寄与や生前贈与

また上記のような問題がなくとも、平等に遺産を分けることに異を唱える相続人が出てくることがあります。例えば相続人の1人が被相続人の介護の負担を集中して被っていたような場合や、特定の相続人のみが生前に多額の贈与を受けたような場合です。
前者であれば介護を行った相続人がその「寄与分」を主張することがありますし、後者の場合はそれ以外の相続人が生前贈与の分を「特別受益」として相続財産に含めて遺産分割を平等に行おうと主張してくることがあるのです。

介護の寄与分に関しては、残念ながら裁判など行ってもなかなか認められることはありません。また特別受益に関しては、確かに遺産に含めて分割を行い直すよう規定されていますが、贈与の実績が曖昧な場合も多く、その特定で揉めやすくなってしまいます。

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相続争いを防ぐために

上記のように相続争いの発生要因には様々なものがありますが、基本的な対処法に関してどれも同じであり、生前からの家族間のコミュニケーションと遺言書の活用がまずは基本になります。被相続人の死後に残された人たちがその遺産の分け方を決めようとすると争いが起きやすくなるので、やはり被相続人が元気なうちに分割の内容を決め、その分け方の背景にある想いや理由を相続人全員が共有することが大切になるのです。

ただし不動産や自社株などの分割の問題に関しては、法人化や信託の活用などその解決のためにはテクニカルな事柄が必要な場合も多いので、ご自身の状況や心情を踏まえて対応してもらえるよう専門家に相談すると良いでしょう。

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