海外財産を相続する場合の注意点


経済のグローバル化や企業の海外展開の加速などの影響で、ビジネス上の理由により海外に長期滞在したり移住したりされる機会が増えてきました。一方で、日本経済の長期的な停滞や国家財政への懸念増とともに高額所得者や富裕層向けの課税強化の影響で、資産運用目的や節税目的で海外資産への投資や資産移動(キャピタルフライト)を行う人たちも増えてきています。
こうしたことの結果として海外の金融機関に口座を持っていたり、海外不動産を持っていたりする日本人が増えてきたため、そうした人の相続が発生した場合の対応が徐々に問題視されるようになってきました。
相続という観点からは、海外財産等があると相続手続きや相続が起きた後の名義変更等がかなり大変ですし、相続税が発生する場合の税金計算等も、海外不動産の場合の国外の財産評価など、負担が増えることとなります。

基本的には被相続人か相続人の片方でも日本の居住者である場合、海外財産に関しては日本の相続税と財産の所在国の相続税(遺産税や相続税相当の税金)の両方の課税対象となり得ます。ただし、それでは二重課税になってしまうため日本の相続税から該当国に納めた税金が控除されるという仕組みになっているのです(外国税額控除)。ただ実際にどのような徴税をされるのか、またどういった手続きが必要になるのかは財産の所在国ごと (場合によってはその中の自治体ごとに)異なるため、その国の税制を確認する必要があります。現地の納税にあたっては現地で税務専門家を探す必要があります。

国ごとに違う相続の制度

海外財産の相続に伴う厄介な問題は、遺産の分割や相続税に関する法体系は国ごとに異なっていることです。

例えばアメリカの場合、相続税は日本語訳で遺産税とも呼ばれ、日本とは課税の流れが異なります。日本では相続が発生すると相続税は財産を受け取った相続人が受け継いだ財産額に基づいて納税しますし、このため遺産分割の方法次第で相続税額が変わります。
しかしアメリカの場合は亡くなった被相続人に遺産税が課税され、税を納めた後に分割されるという順番です。そのため分割方法によって納税額が変わるということも原則的にありません。

また関連する注意点として押さえておきたいのが、財産の所在国が相続統一主義と相続分割主義のどちらを採用しているのかという点です。
財産は現預金や金融資産、また宝石類や骨董品などの動産と土地建物や船舶などの不動産に大きく分けられれます。そして相続統一主義の国は、財産が動産か不動産かを問わず、遺産分割など全ての相続関係を被相続人の本国法に基づいて決めるとしています。一方、相続分割主義の国は相続される財産のうち動産は被相続人の本国法によってき相続関係が決まり、不動産は財産の所在地の法律によって相続関係が決まるとしています。
アメリカは相続分割主義の国なのですが、例えばハワイのコンドミニアムなどアメリカの不動産を所有していた場合、その分割は日本の法定相続分通りには進まない場合があります。

アメリアにある財産の相続が発生した場合の注意点

上記のようにアメリカにコンドミニアムなどの不動産を所有していた場合、相続関係はアメリカの法律に沿って進むため、遺産分割以外にも注意するべき点があります。

代表的なものは検認裁判(プロベート)対策でしょう。
日本では相続が発生した場合、財産は共同相続人に包括的に相続されそこから遺産分割の協議や分割内容に基づく納税へと話が進んでいきます。しかし、アメリカをはじめ一部の国では相続開始時点で遺産財団が形成され、まずはそこに財産が移転される仕組みになっています。遺言がない場合、相続財産は当然に相続人のものとなるのではなく、まずは公的機関のものとなります。
そして債権債務の清算や納税を経た後に残余財産を相続人の間で分割され各人にその所有権が移ります。
このため例えば日本では財産の分割が済めば銀行預金も引き出せますし、それを使うことも可能ですが、アメリカでは全て手続きが済むまで財産を使えないのです。また、アメリカの相続法は州法によるため、各州によって相続人の順位や取り分が異なってきます。
この一連の手続きをプロベートと呼ぶのですが、言葉の壁や法律の利害もあるので、もしこの手続きを行う必要が生じてしまったら、相応の時間と費用を掛け、対応する専門家に依頼するしかありません。

また日本では煩雑な手続きを必要とするものの、相続税の納税時に納税資金が不足している場合、相続財産の物納が認められています。しかしアメリカの遺産税は現金で納めなければならず、納税資金をどう用意するのかという課題も生じてしまう場合があります。

なおアメリカ人たちもこのプロベートの手続きは面倒なので出来れば避けたいと思っている人が多く、被相続人が元気なうちに遺言を残したり、また財産を信託に移転したり、相続人との共同所有にしたりするなどしてプロベートを回避するためのスキームが発達しています。
アメリカに不動産を所有している方は専門家に相談するなどして、こうした対策をきちんと検討した方が良いでしょう。

二重課税を防ぐための外国税額控除

日本の相続税法では、被相続人・相続人の片方でも国内に住所を有する居住者の場合、国内財産・国外財産ともに相続税の課税対象となります(被相続人と相続人ともに5年以上日本の非居住者であった場合、国外財産は課税対象でなくなりますが、この制度を用いた相続税・贈与税逃れが一部の富裕層の間で流行っていることから、2017年税制改正で10年に延長されることになりました)。
なお居住者かどうかは日本への滞在日数や実際的な生活の拠点があったかどうかで判定されるため、住民票を日本に置かなければ良いというような単純なものではありません。実態による事実認定になりますが、家族の生活状況、日本滞在時の居住地、滞在日数(年の半分以内の滞在にするという183日ルールというものがありますが概ねの基準であり絶対ではありません)などの要素から総合的に判断されることになります。

国外財産に課税された相続税は、所在国の相続税・遺産税と二重課税になってしまうため、それに対しては控除が存在します。
日本の相続税の申告・納税前に海外の相続税・遺産税の申告・納税が住んでいる場合は日本での納税時にその分が控除されますし、海外の納税の方が後の場合は日本の相続税を一度満額で計算して申告・納税した後に後日更正の請求をして控除分を返納してもらうことになります。
相続税の外国税額控除は、以下の(1)(2)のうち、いずれか小さい方の金額になります。

(1)外国で支払った相続税に相当する税金
(2)相続税の額 × 海外にある財産の額 / 相続人の相続財産の額

ただしこの外国税額控除には大きな注意点があり、外国税額控除はあくまでも相続税や贈与税に該当する税に対して行われるということです。例えばカナダの場合、アメリカと同様に相続財産はまず遺産財団に譲渡されますが、この財団への譲渡時に譲渡税が課税されてしまうのです。譲渡税は相続税や贈与税と異なる税という扱いのため、外国税額控除の対象にならず、日本とカナダの両国で課税された場合は二重課税のままとなってしまいます。

海外財産の相続に目を光らせる税務署

なお国外財産の相続に関して、税務署も海外までは目を光らせづらいだろうと無申告や過少申告で済まそうとする人がいますが、そうした行為は避けた方が良いでしょう。
現在国税庁などの課税当局はキャピタルフライトとそれを活用した租税回避に対して目を光らせており、様々な対応措置を講じ始めています。無申告や意図的な過少申告により重加算税が課せられるリスクがあります。
例えば2015年から年末時点で所有している海外財産が5000万円を超える場合は国外財産調書を提出しなければならなくなりました。またそれとは別に富裕層全般に対しても特に監視対象とするべき人物や家族を「重点監視富裕層」に指定し監視強化をしているのですが、監視内容には海外への送金や投資も含まれていると思われます。
資産額が特別大きいわけや複雑ではないが国外財産調書を提出していた被相続人の相続税申告で、任意聴取の後に税務調査となり、税務署職員から国外財産調書を提出しているものは全てチェックするという話も伝わっています(その所管の方針だけかもしれませんが、課税当局が海外資産をかなり意識していることは間違いありません)。

またこの流れは日本だけの話ではなく、リーマン・ショック後の世界的な不況の中で一部の多国籍企業や富裕層のキャピタルフライトと租税回避に世界的な注目と批判が集まったため、これまで行われなかったような各国の課税当局の国際的な情報連携も進んできているのです。例えばこれまではできなかった外国にある銀行口座の特定なども可能になってきました。

いずれにしても海外財産の相続は国内法だけで処理できず、手続きなどが複雑化する傾向にあります。可能であれば被相続人が元気なうちから事前の対策を行いたいですし、相続が発生してしまった場合は専門家を頼った方が良いでしょう。

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