平成29年度税制改正で使い勝手が良くなる物納制度


相続に関する事前の対策として、どう遺産を分割するのか(分割対策)、納税金額をどう抑えるか(節税対策)、そして納税資金を用意するにはどうしたら良いのか(納税資金対策)という3つのテーマがあると言われています。

相続税の納税は、原則的に金銭一括納付となっています。納税資金に困る分かりやすい例として、相続財産の不動産の課税上の財産評価額が2億円、預金が1千万しかない、法定相続人が1人の場合、5260万円の相続税の支払いが発生しますが、相続財産の預金だけでは足りず、不動産を守ろうとしたら法定相続人が自らの預貯金から税金を払わなくてはなりませんが、十分な資金がないことも十分にあり得ます。
遺産の分割や節税に関しても悩む家族は多いかと思いますが、日本人の富裕層は地主や会社オーナーが多く、財産の構成上流動性の高い現預金などの比率が比較的低く、不動産や非上場株などの所有比率が高い場合が多いため、納税資金の対策も重要なテーマとなります。

相続税の納付では現金一括納付が難しい事由があるときは「延納」が認められており(注1)、延納すらも困難という場合には「物納」も認められています。ただ、どのような財産であっても物納を行えるというわけではありません。物納を行う場合には、納める財産の優先順位が存在するため、使い勝手の良い制度とは言えない現状がありました。

しかし平成29年度の税制改正において物納財産に関する優先順位の変更が行われたため、税制改正後は従来より使い勝手の良い制度となることが期待されています。
今回は平成29年度の税制改正も踏まえて物納制度の概要を見ていきましょう。

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物納制度を選択するための要件

冒頭のとおり、物納は現金での相続税の納付が困難な場合に選択可能な制度です。これは相続税特有の制度であり、所得税や法人税、また贈与税に類似の制度はありません。

ただし、物納は相続税を納めるための現金が不足していれば、どのような状況でも選択できるというわけでもありません。まず相続税の申告期限までに物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署へ提出する必要があります。
税務署長は、その物納申請に係る要件の調査結果に基づいて、物納申請期限から3か月以内に許可又は却下を行います。なお、申請財産の状況によっては、許可又は却下までの期間を最長で9か月まで延長する場合があります。
相続税には物納のほかに延納という制度も存在しますが、延納したとしても相続税を現金で納付することが難しいと判断される場合のみ物納は選択可能です。そのため、納税者の将来収入(退職金や貸付金の返還など)が見込まれる範囲の金額に関しては物納を選ぶことができません。

そして上記のような条件を満たしたとしても、物納できる財産は自由に選択できず、物納財産の選択には優先順位が指定されています。

平成29年度税制改正後の物納順位

まず物納可能な財産は、相続や贈与によって取得をしたものに限定されます。相続人が以前から所有していた財産を物納に充てることはできません。また日本国内に所在する財産のみが対象という条件もあります。

以上の条件を満たした上で、物納することができる財産の優先順位は以下のようになっていました。

【平成29年度税制改正以前】

第1順位
・国債・地方債・不動産(物納劣後財産を除く)・船舶
・不動産のうち物納劣後財産に該当するもの

第2順位
・株式・社債・証券投資信託または貸付信託の受益証券

第3順位
・動産(絵画などの美術品や骨董品、宝石類など)

上記のような物納の順位が、下記のように変わります。

【平成29年度税制改正以後】

第1順位
・国債・地方債・不動産(物納劣後財産を除く)・船舶
・株式・社債・証券投資信託等の受益証券・投資証券等のうち上場されているもの等
・不動産のうち物納劣後財産に該当するもの

第2順位
・上場されていない株式・社債・証券投資信託または貸付信託の受益証券

第3順位
・動産(絵画などの美術品や骨董品、宝石類など)

つまり、一括であれ延納であれ金銭での納付が困難な金額に関しては、以前のような国債・地方債・不動産・船舶に加えて、上場されている金融資産からも優先的に物納することが可能となりました。

上場されている金融資産の引き取り価格

上記のような上場されている金融資産を物納する場合の国の引き取り価額は、原則として相続税評価額と同額になります。つまり相続発生時点の評価額(相続発生日または相続発生月・前月・前々月の平均のいずれか低い金額)となるのです。このため、例えば上場企業の株式を相続した際に、物納の要件を満たしている場合は、相続時点の段階から相続税申告までの間に下落してしまった金融資産などによって納税するということも可能です。
(上昇している場合は当然売却をしてから納税した方が得です。)

これらの財産を物納する場合、売却の場合と異なり、財産取得時からの計算上の売却利益に関しては課税されません。これも物納を選択する人にとっては大きなメリットと言えるでしょう。

相続税の延納や物納の詳細はまた解説してまいりたいと思います。

(注1)
納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、担保を提供することにより、毎年一定額ずつ支払っていく年賦で納付することができます。延納はタダでできるわけではなく、利子も発生します。
次に掲げる全ての要件を満たす場合に、延納申請をすることができます。
(1) 相続税額が10万円を超えること。
(2) 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
(3) 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。(担保は国債、上場株式、不動産等が認められ、国債以外は掛け目も考慮されます)
 ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
(4) 延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。

延納申請の期限は相続税申告期限と同じで相続開始から10ヶ月以内です。10ヶ月以内に担保提出関係書類が準備できないときは「担保提供関係書類提出期限延長届書」を提出することで3ヶ月の延長が可能です。3ヶ月の延長でも担保提出関係書類が準備できない場合にはさらに3ヶ月延長が可能ですが、それ以上の延長は認められません。10ヶ月後からは合計6ヶ月までが延長の限度ということになります。

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