米国の相続税制と課税対象者


近年、留学や海外赴任などの理由による国外居住者は増加傾向にあり、外務省の統計によれば2015年10月1日時点での在留邦人総数は131万7078人と前年から2万6903人増加しています。これは外務省が統計を開始した1968年以降、最も多い人数です。
日本では富裕層や高額所得者向けの課税が強化傾向にあり、相続税の基礎控除引き下げや最高税率の上昇、また所得税の最高税率上昇などがされています。そのため富裕層の一部では日本の税制に嫌気が差し、財産や自分の身を海外へ移したりして税負担を回避あるいは軽減しようとする動きもあり、そのような動きを封じようと課税当局も富裕層の海外への資産逃避へ関心が集まっています。

こうした状況の中、海外の相続制度を理解する重要性が高まってきました。邦人が海外に長期滞在している最中に亡くなったり、海外財産を所有している人が亡くなったりした場合、日本での相続税のみならず、その国の相続税が適用されることがあるからです。
今回の記事では、最も在外邦人が多く居住する米国の相続税制を見ていきましょう。

米国の相続税の対象者

米国の相続税制では、相続人(故人から財産をもらう人)が課税対象者となる日本とは異なり、被相続人(故人)が課税対象者となります。そして相続税の名称もここでは便宜上相続税と呼びますが、正しくは相続税(inheritance tax)ではなく、遺産税(estate tax)と言います。
この違いは決して名称の違いだけではなく、相続人が課税対象となる日本では相続人の人数ごとに基礎控除が設定されているため、相続人の状況によって課税額も変わります。しかし遺産税では故人本人への課税なので原則的にそのようなことはありません。
それに、被相続人のステータスによって米国の相続税の課税対象となるか否かも変わります。日本では相続人が日本の居住者の場合、被相続人の状況に関係なく、国内に居住している相続人は相続税の課税対象となります。

なお、具体的なステータスごとの判定は以下の通りです。

①米国市民又は米国居住者

被相続人が、米国市民もしくは米国に住所を有する米国居住者の場合、相続の発生時に被相続人が所有していた財産は米国内外を問わず課税対象となります。

なお米国居住者か否かの判定は、基本的に下記の基準で判定されます。
・米国永住権(グリーンカード)を有している外国人
・「その年の米国滞在日数が31日以上で、かつその年の米国滞在日数、前年の米国滞在日数の1/3の日数、および、前々年の米国滞在日数の1/6の日数の3年間の合計日数が183日以上」の外国人

この条件を考えると、米国に長期赴任していた場合、米国内外の財産が相続税の対象となる可能性があります。ただし、上記のような条件を満たす被相続人であっても、保有するビザが一定期間のみであり、さらに他国において社会的経済的な関係を維持している場合等には、米国に住所を有さないものとして取り扱われる場合もあります。
詳細に関してはその都度専門家の判断を仰いだ方が良いでしょう。

②非居住外国人

被相続人が、米国市民でも米国居住者でもない場合でも、被相続人の死亡時における米国内財産に関しては課税対象となります。近年、節税などを目的に中古木造の海外不動産へ投資をする例が増えていますが、米国不動産を所有する場合は米国の相続税(遺産税)の対象となりますので、権利関係の相続人への移転などもやっかいな問題になりますので、相続の準備はきちんと行っておきましょう。

なお日本との間で相続税や遺産税の二重課税が行われた場合、原則的には外国税額控除によってその重複分は還付されます。

相続税の計算

米国の相続税の計算は、まずは日本と同様に遺産にみなし相続財産を合わせた後に債務を控除し、遺産総額を求めます。そしてその後は日本と異なって基礎控除を除いた後に税率を適用します。
(日本では基礎控除適用後、法定相続分で按分してから税率を適用します。)
基礎控除額は、被相続人が米国市民もしくは米国居住者の場合は545万ドル、非居住外国人の場合は6万ドルです。 また日本と同様に配偶者関連の控除が存在し、米国市民である配偶者が相続した財産は相続税計算時に全額控除されます。

適用税率は以下の通りであり、税額は「(A-B)×C+D 」にて求められます。

基礎控除後課税移転額 A 累進調整 B 適用税率 C 加算額 D
$10,000 以下 $0 18% $0
$10,000 超 $20,000 以下 $10,000 20% $1,800
$20,000 超 $40,000 以下 $20,000 22% $3,800
$40,000 超 $60,000 以下 $40,000 24% $8,200
$60,000 超 $80,000 以下 $60,000 26% $13,000
$80,000 超 $100,000 以下 $80,000 28% $18,000
$100,000 超 $150,000 以下 $100,000 30% $23,800
$150,000 超 $250,000 以下 $150,000 32% $38,800
$250,000 超 $500,000 以下 $250,000 34% $70,800
$500,000 超 $750,000 以下 $500,000 37% $155,800
$750,000 超 $1,000,000 以下 $750,000 39% $248,300
$1,000,000 超 $1,000,000 40% $345,800

出典:経済産業省「平成28年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業 (対内直接投資促進体制整備等調査(諸外国における相続税等調査))」より

相続税計算の流れ

① 被相続人の遺産総額(=被相続人が死亡時に所有していた全ての財産の時価)を計算する。
② 認められている控除を差し引いて、遺産総額の純価値を計算する。
③ 生前行われた課税贈与の調整額(調整済み課税贈与額)を遺産総額の純価値に加算する。
④ 調整済み課税贈与額に係る税額を差し引いて暫定的な相続税額を計算する。
⑤ 適用可能な税額控除及び控除額を差し引いて、相続税額を計算する。

出典:経済産業省「平成28年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業 (対内直接投資促進体制整備等調査(諸外国における相続税等調査))」より
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusaisozei/souzokuzei2016.pdf

財産の評価

課税財産をどのように評価するのかですが、原則は相続開始時における時価が適用されます。ただし一定の場合は、相続発生日(死亡日)から6 か月後の時価を選択することも可能です。
また公開市場での独立企業間取引が存在せず時価が不明確な財産に関しては資格を持った鑑定人による評価が適用されます。

申告納付期限

日本では相続税の申告納税期限は相続の発生から10ヶ月以内ですが、米国では9ヶ月以内です。ただし、その期限は12ヶ月を超えない範囲であれば延長が認められており、さらに一定の条件のもと下記のような納税猶予も10年まで認められています。

納付の特例

・分割納税制度
被相続人が米国市民又は米国居住者の場合に限定されますが、不動産など遺産で現金化が難しく納税ができないという場合、分割での納税が認められています。ただし、被相続人が非居住外国人の場合は分割納税が認められていないので、米国不動産などに投資をしている場合は納税資金の用意が大切になります(この場合は基礎控除も6万ドルまでしかありません)。

・物納制度
米国では原則的に物納制度は認められていません。しかしアメリカの国税局に当たるIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)は、徴税のために遺産を差し押さえる権利を有しているので、これは強制的な物納と言えるでしょう

外国税額控除

被相続人が米国市民か居住者であり、米郊外財産も課税対象となっている際に、当該国でも相続税(もしくは遺産税)の課税が行われた場合はその分の当該外国税額控除を受けることが可能です。

以上、米国の相続税(遺産税)が課税される対象者と課税金額などに関するまとめをお届けしました。ただ海外相続は複雑な論点が多いたため、少額であっても専門家への依頼が必要でしょう。
相続tokyoでも適切な専門家の紹介を行っていますので、お気軽にご相談ください。

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