英国の相続税制と課税対象者


海外で居住する邦人数は年々増加傾向にあり、在留邦人が多い順に国を順位付けすると、邦人数米国(約420万人)、中国(約130万人)、オーストラリア(約90万人)、英国(約68万人)と続きます(平成27年10月1日時点)。
海外に居住する邦人が増えてきており、海外の相続税制に関する理解の重要性が高まってきました。多くの国で、その国に居住していた場合ではその国での相続税の対象となるからです(相続税の課税のない国も多くあります)。また居住をしていなくとも自国財産の相続には自国の法律が適用されるとしている国もたくさんあります。

今回の記事では欧州の中で最も多くの邦人が在留している英国の相続税制を見ていきましょう。

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英国の相続税の対象者

英国の相続税の対象者ですが、米国と同様に遺産課税方式が採用されており、日本やドイツのような遺産取得課税方式と異なります。遺産課税方式では、相続人ではなく被相続人が課税対象者となり、遺産分割の前に課税を先に行います。日本のような遺産取得課税方式では、法定相続分に基づいて按分後に税率を適用するので、相続人の状況によって遺産総額が同じでも課税額が変わります。

また被相続人のステータスによって、相続税が課税される財産も異なり、このあたりは米国の相続税の仕組みにかなり近いと言えるでしょう。ステータスごとの違いは以下の通りです。

被相続人が英国にドミサイルを有している場合

ドミサイルとはもともと住まいのことで、英国の居住者と判定される場合、英国籍の有無に関係なく、英国内外全ての資産が英国の相続税の課税対象となります。
(外国の相続税と二重課税になってしまう場合は、どちらかの国での控除措置があります。)

このドミサイルというのは少し難しく、英国ではその個人が恒久的な母国とみなす国でもあり、英国の法律では個人のドミサイルは1国に限定されます。しかし場合によっては英国のドミサイルを有していながら、当該国の法律によってはその国のドミサイルも有しているという事態が起こりえます(両国の居住者に該当するような場合)。
そのため、英国では下記の場合は英国のドミサイルを有するとするルールを設けています。

・被相続人が死亡時直前の 3 年間のいずれかの時点において、英国にドミサイルを有していた。
・被相続人が死亡する前の20年間において、その内の15年間以上、英国居住者であった
※年間183日超滞在した個人は、英国居住者として取り扱われます

被相続人が英国にドミサイルを有していない場合

被相続人の死亡時における、英国内の財産にのみに相続税は適用されます。

相続税率や税計算の流れ

まず被相続人の財産から一定の債務等を控除した価額の合計が課税財産となります。そこから基礎控除32万5000ポンド(約4450万円:4月5日現在)を控除した金額が課税財産総額となります。
ただし、現在の英国では相続税制の変革の最中であり、基礎控除にも変化がみられます。例えば2017年4月6日以降の相続では、相続時に被相続人が直系子孫に主要住居を遺す場合は、基礎控除額は10万ポンド増額され、42万5000 ポンド(約5820万円)になります(日本の小規模宅地等の特例に近いです)。また今後も基礎控除は段階的に引き上げられていく予定です。

なお基礎控除を超えた資産への税率は、一律で40%と高めです。ただイギリスの相続税制で最後に記す様に贈与を活用した抜け穴が大きく、また以下のような免税措置も存在します。

課税価格計算の特例

日本でも最近は事業承継税制のような納税猶予措置が誕生しましたし、もともと農地の相続には猶予措置が存在します。
英国にも同じく事業資産や農業資産に係る相続税には免除規定があり、一定の要件を満たせば相続税上の評価額が50%、もしくは100%減額されます。

・事業資産免除
まず事業資産免除は、事業や事業の持分から成る資産に適用されます。この免除は国外資産にも適用され、さらに農業資産免除の対象ではない農業資産にも適用される場合があります。

・農業資産免除
農業資産免除は英国、チャンネル島、マン島又は欧州経済領域に所在する資産のみが対象です。具体的には農地や牧草地、また家畜や水産物の集中栽培に関係して使用される森林及や建物、土地なども対象となるのです。

相続税額の計算

相続税額は、下記の手順で計算されます。

① 被相続人の遺産総額(=被相続人が死亡時に所有していた全ての財産の時価)を計算する。
② 被相続人が死亡前 7 年以内に行った贈与額を計算する。
③ 死亡年の基礎控除額から②で計算した死亡前 7 年以内の贈与額を減額する。
④ ①で計算した遺産総額から③で計算した基礎控除額残額を控除する。
⑤ ④で計算した額に適用税率を乗じる。
⑥ 各種税額控除を適用し、相続税額を計算する。

出典:経済産業省「平成28年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業 (対内直接投資促進体制整備等調査(諸外国における相続税等調査))」より

申告納付期限

英国での相続税の納付期限は、相続の発生した月の末日から 6 か月以内です。相続開始日から 12 か月以内に被相続人の管轄税務署に申告書を提出しなければいけません。

納付の特例

日本にも延納や物納のような制度がありますが、英国にも同種の制度が存在します。

・分割納税制度
何かしらの事情があって売却に時間が必要な資産の係る相続税は、英国税務当局の合意を条件に10年均等分割払いが可能です。

・支払手段の特例
納付は原則現金ですが、被相続人が所有していた政府貯蓄国債などで相続税を支払うことも可能です。

短期に相続が重なった場合の控除

万が一、何かの事情で相続人が短期間のうちに死亡し、新たな相続が発生してしまった場合、相次相続控除の適用が可能です。
この場合の控除額ですが、2回目の相続が1回目の相続から1年以内に発生した場合は相続税が100%免除され、そこから1年ごとに免除額が20%ずつ減少していきます。

贈与税との関係

英国の相続税制の大きな特長は、何と言っても贈与税制との関連でしょう。英国では相続の発生(死亡時)の7年より前までに行われた生前贈与は全額非課税となり、7年以内に行われた贈与に関してのみ、以下の税率で再計算して納めるという仕組みです。

贈与日から死亡日までの年数と税率

・3年未満 40%
・3年以上 4年未満 32%
・4年以上 5年未満 24%
・5年以上 6年未満 16%
・6年以上 7年未満 8%
・7年以上 0%

つまりある程度時間をかけて相続対策を行えば、課税の心配はほとんどないと言えます。

以上、英国の相続税制に関する情報をお届けしました。英国に何か財産を有している人は注意をしてください。

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