発展著しいAIは金融業をどう変えるのか?


AI(人工頭脳)という言葉をメディアで見ない日はないというほどAIブームとなってきました。今回の記事では、AIが金融業の未来にどのような影響を与えるのか、また、そこにはどのような課題があるのかを、アクセンチュアの金融サービス本部マネジング・ディレクター下野崇氏のレポートや、黒田日銀総裁が日本銀行決済機構局・金融市場局合同コンファレンス 「AIと金融サービス・金融市場」にて行った挨拶文などを参考に見ていきましょう。

今のAIブームと過去のAIブームとの違い

そもそもAIとはどういったもので、どのような特長があるのかを振り返ってみましょう。現在はAIブームと言われていますが、これは歴史上3回目のAIブームと言われており、過去のAIブームと現在のAIブームを比較することで現在AI注目が集まる理由も見えてきます。

第1次AIブーム

第1次AIブームは、1956年頃から始まったと言われています。当時はコンピュータ黎明期でもあり、「機械で人間の知能をシミュレーションできないか?」という問いのもと、様々な研究が行われました。
しかし、残念ながら当時はコンピュータのスペックも非常に低く、単純なゲームや迷路の探索程度以上の成果をあげることができなかったため、このブームは終焉へと向かっていきます。

第2次AIブーム

次のAIブームコンピューターの一般化、パソコン(personal computer)の一般化と共に訪れます。
1980年代、米国のIBM社やアップル社などがパソコンの市場拡大に目を付け、新機種を次々に投入、パソコンのスペックも現代に比較すれば大きく劣るものの上昇していきました。

そして、パソコンの普及によるコンピュータの一般化と性能の向上を背景に、第2次AIブームは興ります。当時のAIブームでは、コンピュータに人間や知識やルール(処理プロセス)を与え、それによって人間の知能と同じ働きをコンピュータにさせようとしていました。「ルールベース」と呼ばれる方法です。
この方法は一定の成果を上げることができたのですが、コンピュータへのルールの記述が人間であり、記述できる事柄にも限界があるため汎用性に欠け、ブームは次第に終息していきます。

第3次AIブーム

今現在訪れている第3次AIブームは、2000年以降急速に普及したインターネットの存在や、iPhoneに代表されるようなスマートフォンの普及によってコンピュータやネットワークが身近になり、やり取りされるデータ量も爆発的に増大したことに端を発しています。もちろん、コンピュータ自体の性能の向上も大きなブームの背景になっています。

現在のAIブームと過去のAIブームの違いは、現在のAIが「機械学習」をベースとしていることです。第2次AIブームの時までは、AIが行う処理のルールは人間が与えていました。しかし機会学習ではコンピュータ対して「Aならばa」や「Bならばb」というようなデータのみを大量に与えることで、コンピュータ自らその法則性を導き出し(学習し)処理プロセスを確立、人間が事前に教えていなくても「Cならばc」ということを予測することを可能とします。

このことによって、例えば顧客からの問い合わせに対してAIが柔軟に対応するというような、今までのフレームでは出来そうもなかったことも、膨大な事例集さえ用意できれば実現し得る可能性が高まったのです。

AIに奪われる仕事No.1は金融?

上記が現在のAIブームの姿なのですが、こうしたAIの進化は多くの仕事に影響を与えると言われています。これまで人間しかできなかったことをAIが代替えできる余地が大きく増大するからです。
これまでは、コンピュータや機械に代替えされる仕事というのは”高度”さを必要としない単純労働や、肉体労働の類だとされてきました。しかし機械学習によって進化するAIは、ホワイトカラーや専門職の人間が行ってきたような高度な仕事も代替えできる可能性を秘めています。

そして中でも、金融業や会計・税務の仕事はAIによって多くの仕事が代替えされる筆頭格と言われています。例えば、英オックスフォード大学のオズボーン博士が発表した論文では、AIを搭載したロボットやコンピュータにより、今後10~20年の間に奪われる可能性が高い職種として、金融業務が上位にランキングされています。
コールセンターのオペレーターや、小売店のレジスタッフなどもAIによって代替えされていくであろうことは想像しやすいですが、それだけではなく銀行の融資担当者や証券会社の営業マンといった相手との受け応えなどが必要な業務もAIに代替えされる可能性があるとされています。
顧客企業への融資審査は人間が行っていましたが、過去の事例や人間では処理しきれない量のビックデータまで含めて審査を行えるAIの方がより正確な審査ができる可能性があります。また顧客の投資相談へもこれまでの顧客とのやり取りデータと市場動向を同時に処理できるAIの方が大半の営業マンよりも優れた提案ができるようになる可能性があります。
金融業に限定されませんが、「大量のデータの中から、一定の規則・ルールに従って、回答を導き出す」という特性のある仕事ほど、AIに代替えされる余地が大きいと言えるでしょう。
金融機関におけるロボット/人工知能(AI)の活用にて、実際に金融業の中でもAIに置き換わる可能性が高い分野として下記が取り上げられています。

人的オペレーション代替

人間の従業員が行っていた、事務規定やルールに関する問い合わせは、チャット形式を活用することで、対顧客向けのコールセンターによる代替えが行いやすい。

リスク管理

投資性の高い金融商品の販売では、営業マンによる顧客へのリスク説明が重要ですが、残念ながら目の前の収益を追う一部の営業マンのために、そうしたリスク説明がおざなりになってしまう場合があります。
AIが営業マンとお客様の会話を常時記録・分析を行うことで、NGワードや不適切な勧誘がないかチェックすることが可能になるかもしれません。

対顧客アドバイス

メインの顧客への対応は人間が行いつつも、AIによる診断や分析をセカンドオピニオンとしたり、日本でもロボ・アドバイザーとして登場となっているウェルスナビやTHEOのようなサービスが発展していくと、人間の営業マンが介在せずAIが顧客のための提案や資産管理を代替したりすることがどんどん行われるかもしれません。

人財育成

これまで、金融機関内の人材育成は勘や経験が重視され、属人的な領域でした。しかしEランニングと連携しつつ、こうした分野を代替えする試みが始まっています。

新たな課題

AIの発展は利便性や生産性を飛躍的に上昇させることが期待されますが、必ずしも良い面ばかりとは限りません。多くの新技術がそうであったように、デメリットやリスクも存在します。金融分野でのAIの活用にはどのようなデメリットやリスクがあるのか、黒田日銀総裁による日本銀行決済機構局・金融市場局合同コンファレンス 「AIと金融サービス・金融市場」での挨拶から、例えば日本銀行などはどのようにAIのリスクを感じているのかを見ていきましょう。

市場価格の形成や市場構造などへの影響

まずはAIの投資活用による市場への影響です。現在でもすでに高速通信やプログラムを用いた「高頻度取引」や「アルゴリズム取引」などは行われています。こうした取引は市場の流動性を高める一方、類似取引が拡大され市場のボラティリティを過度に高める危険性が指摘されています。

情報セキュリティやプライバシーの確保

今のAIブームは機械学習を前提としており、そのためには膨大なデータの収集・蓄積が欠かせません。そのため、金融業におけるAIの活用活用では、個人が望まない形での情報収集が進む可能性があります。
情報セキュリティの確保や個人情報保護のためのコンプライアンス意識の徹底の重要性が今まで以上に高まっています。

「信頼」や「ガバナンス」の確保

そして最後は月並みかもしれませんが、感情の問題です。遡れば19世紀に蒸気機関の発展とともに起きた産業革命以降、新しい技術は1部の人には強い不安を与え敵視の対象となってきました。新技術の誕生によって仕事を失う人がいるからです。
金融業でのAI活用も、不要になった人員が大量の解雇につながりかねず、AIに対する敵視や不安が高まるかもしれません。
またSF的なテーマかもしれませんが、AI活用が進んだ結果、もしそれが暴走した場合に人間が処理しきれない事態を迎えてしまうのではないかという不安もあります。
また、AIが何故そうした判断をしたのかというプロセスがブラックボックスになることで、市場の混乱なども起きるかもしれません。最強の将棋ソフトのプログラマーは、自分でも何故ソフトが強いのか分からないと言っています。AIが金融市場を席捲すると、あらぬ方向へ進んでしまうかもしれませんし、一方で、人間のトレーダーは誰も太刀打ち出来なくなり、AIによる取引を見ているだけ、くらいしか仕事がなくなるかもしれません。

AIの発展は著しく、金融業に限らずAIの利用はどんどん進んでいくことでしょう。そのことによって生じるリスクやデメリットから身を守るためには、まずはAIとはどういったものなのか正しく理解することが大切です。また、AIをどのように自分の業務や生活に役立てるか、という視点を持って動向を追っておくと、便益を最初に得られるかもしれません。

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