エネルギー産業のスマート化は何をもたらすのか?


2008年7月には1バレル(約159l):145ドルという高値をつけていた原油価格は2017年現在では大幅に下落しており、2017年7月時点では1バレル46ドルほどとなっています。
こうした原油価格の大幅な値下がりの背景には、2005年頃から起き始めたシェール革命の影響や地政学的な要因が大きいと言えるでしょう。

原油価格の値下がりは日本のようなエネルギーを輸入に頼る低資源国の消費者にはメリットとなる反面、ロシアを含めた資源依存度の高い発展途上国の経済停滞や、財政への悪影響に繋がりかねません。そうした経済的な問題が、政治・軍事的問題の遠因にもなっています。
はたして、今後の原油価格の動向はどのような姿が予想されるのでしょうか。地政学的なリスクを含めて様々な要因によって原油価格は規定されるため、短期の予想をすることは難しいと言えるでしょう。しかし、技術動向だけに着目しますと、長期的には下落基調となる可能性が考えられます。

今回の記事では、FOREIGN AFFAIRS REPORT 2017年7月号の記事、「スマート化するエネルギー・電力産業」を参考に、原油価格に影響を与えているシェール革命やスマート・グリットの概要を見ていきましょう。

シェール革命の影響

これまでの伝統的な油田やガス田以外に、シェール層(頁岩層)と呼ばれる硬質な岩盤の中にも石油・ガス資源は眠っていました。しかし、そうした資源を安価に採掘する技術がなかったため、実際に利用されることはほとんどありませんでした。
ところが2000年代に入り、水圧砕破法や水平掘削法といったシェール資源を安価に発掘するための技術が開発されると状況は大きく変わります。資源を含んだシェール層が中東やロシアと言った伝統的な資源国ではなく、アメリアに多かったこともあって、石油資源の供給元が多様化し、市場価格の低下や石油供給の安定化につながりました。

oil
世界経済のネタ帳より

こうした石油価格の下落は、サウジアラビアやクウェートなどOPEC各国の石油価格への支配力低下も意味します。
サウジアラビアとカタールの関係緊張化や、ソフトバンクがサウジアラビアから出資を受けたソフトバンク・ビジョン・ファンドの設立など、中東が関わるニュースがメディアを騒がせました。こうしたニュースの背景には、石油への支配力低下に対する危機感の高まりがあるとも言われています。
ソフトバンクの孫正義社長は、自身のIT企業への投資実績や買収したアームの半導体チップが今後のIoT時代の未来を見通す武器になることを背景に、「神は20世紀に閣下に対して最高の贈り物をされました。それは石油です。では21世紀はどうでしょう。私なら未来を見通す水晶玉が欲しいと言うでしょう」と口説き、サウジアラビアの石油時代後の次世代投資への思惑と一致したと言われています。

こうした産油国への影響は、スマート・グリットによる電力利用の効率化が進めば、より大きな形となって現れてくるかもしれません。

スマート・グリットとは何か?

ここでいうグリット(Grid)とは送電網の意味であり、直訳すれば「賢い送電網」と言えるでしょう。ネットワークやコンピューター、場合によってはAIを活用して送電施設や蓄電池、発電施設などが一体となった送電網を管理し、電力の生産や流通における無駄を省いてエネルギー利用を効率化させようという概念です。
類似の概念自体は昔からあり、1970年頃にはコンピューターによって送電施設を管理する構想があったと言われています。

現在、特にスマート・グリットが注目されているのは、太陽光や風力などの自然エネルギー利用が発達してきたからでしょう。CO2など環境に悪影響のある物質を排出しない自然エネルギーの利用には多くの人からの期待が寄せられていますが、多くの場合、発電が安定しないというデメリットがあります。
そこで発電施設と蓄電池を結び、さらに電力を利用する施設(家庭や学校、職場、商業施設など)での利用状況を分析した上で最適な送電を行う技術の研究に注目が集まっています。本格的に実現すれば自然エネルギー利用が促進され、世界のエネルギー事情を大きく変えることになりかねません。
まだ肝心な蓄電池の開発に課題があるため、発展途上の技術と言えますが、今度の動向が注目される分野です。

注目集まるマイクロ・グリット

またスマート・グリットの関連で言えば既に実用化が大きく進んでいるマイクロ・グリットも重要な技術です。これは大学や病院などが独自に発電施設を持ち、一般の発電施設から送られる電力供給とは別の供給元をもつ、あるいは電力的に独立する概念です。もともとは電力供給のコストを度外視しても安定的な電力供給が必要とされる軍隊内(米軍内)で研究が始まりました。
既に太陽光などの自然エネルギーをシステム内に取り込むなどした形での活用が進んでいます。

AIやロボットの活用による採掘コストの削減

また旧来の石油産業も、AIやロボットなどの技術を活用して大きな進化を遂げようとしています。例えば新たな油田の探索では、これまで蓄積されてきた厖大なデータの活用によって、飛躍的に生産性が高まってきています。
大手石油企業のブリティッシュ・ペトロリアム(BP)は、2017年4月にデータ分析によってメキシコ湾に2億バレルほどの石油が埋蔵された油田を発見したと発表しました。BPによれば、この油田の発見にはかつてであれば1年はかかっていたのが、データ分析技術の向上によって数週間で見つけつることができたというのです。

こうしたことが続くようであれば、やはり世界の原油価格市場への下落圧力をかける要因の1つとなるでしょう。

また石油採掘では、機材の故障が問題になることが多いのですが、データ分析とセンサーの活用によって故障前に故障が発生しそうな箇所を特定し、事前に部品の取り換えなどを行うことで運転停止期間を短くし、採掘コストを削減する取り組みも進んでいます。
その他に、工事や採掘のロボット・オートメーション化の研究も進んでおり、このことも工事期間の短縮や、採掘コストの削減に影響を与えるでしょう。

原油価格の下落は世界経済や、各国の政治動向にも大きな影響を与える可能性が高いため、今後も動向を注視したいと思います。

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