NHKでも話題の睡眠負債とは?〜その返済方法や解消法〜


睡眠不足の状態が蓄積されていくと、免疫力の低下によるがんや老廃物の蓄積による認知症のリスクが高まる可能性が指摘されています。睡眠不足の蓄積である睡眠負債は、本来必要な睡眠時間を十分に取らないと溜まっていくようです。
現役で働いているビジネスパーソンには、平日の睡眠不足など、睡眠に関する悩みを持っている人が多いでしょう。それというのも2009年の調査では、日本はOECD加盟国の中で平均睡眠時間が韓国の469分に次いで2番目に短い470分となっています。上位のイギリス(503分)やカナダ(509分)に比較して30分以上も短く、1位のフランス(530分)とは1時間も差がついているのです。
また、厚生労働省の「平成27年国民健康・栄養調査」では、4割弱の方が睡眠時間は6時間未満と回答しています。
個人差はありますが、本来必要な睡眠時間は7~8時間とされています。

全ての人にとって、短い時間の睡眠が問題になる訳ではありません。必要な睡眠時間は人それぞれだとされており、中には短い時間の睡眠でも問題ない人もいると言われています。しかし、いわゆるそうしたショートスリーパーと呼ばれるような人たちは少数派と言って良いでしょう。
事実、今睡眠不足の蓄積=”睡眠負債”という言葉が話題になっており、6月18日(日)放送のNHKスペッシャルにて特集番組が放送され、それをきっかけに様々なメディアで睡眠負債が話題になりました。

今回はこの睡眠負債について、睡眠負債とはどのようなもので、どういったデメリットがあるのか、またその解消や返済のためには何をしたら良いのかなどについてお届けします。

注目集まる睡眠負債の意味

2017年6月18日放送のNHKスペシャルでも取り上げられた、睡眠負債とは、端的に言ってしまえば睡眠不足の蓄積です。たまに「仕事の山場などが来そうでそれに備えて寝だめをしておく」という方がいますが、人間は基本的に事前に寝だめを行うということができません。つまり”睡眠貯蓄”というようなものはないのです。
しかし、寝不足が続けばそれはまるで負債のように身体や精神にダメージが蓄積していきます。その様がまさに負債のようだということで、睡眠に関する研究分野では、蓄積されて行っている寝不足のことを睡眠負債と呼ぶようになったのです。

「では睡眠負債とは、寝不足のことなのか?」と思われる方もいるかもしれません。確かに両者は関連する事象ではありますが、一過性の寝不足と慢性的な睡眠不足が積み上がった睡眠負債は、身体などに現れる症状や感じ方が異なります。
一過性の寝不足の場合は日中の眠気やだるさなどが問題ですが、睡眠負債の蓄積は長期的な健康リスクを発生させます。さらに恐ろしいのは一過性の寝不足の場合は”眠気”という形で症状を自覚できるのですが、睡眠負債が蓄積した状態では、例えば脳の集中力が下がっていったとしても、その状態に慣らされてしまっているため、自覚しづらいということです。
そのため、ビジネスパーソンであれば本来のポテンシャルを発揮できないことになる可能性もありますし、仕事上以外にも私生活で(健康被害以外で集中力不足による)悪影響を及ぼしてしまっている場合もあります。また、睡眠負債の蓄積を自覚しないまま車の運転を行う場合、重大な事故に発展してしまいかねません。

慢性的な身体ダメージの蓄積や集中力の低下、そして気づきづらさが睡眠負債の特徴と言えるでしょう。

睡眠負債の弊害

睡眠負債を蓄積してしまうとどのようなデメリットが生じてしまうのか、より具体的に見ていきましょう。一般的には寝不足の時は頭がボーっとしたり、疲れやすくなってしまったりというのを体感として感じると思います。そうした集中力の欠如や慢性的な眠気、また疲労も睡眠負債の影響の1つのなのですが、それだけではなく睡眠負債は肥満や糖尿病、また認知症の原因になるとも言われており、深刻な身体へのダメージをもたらします。

睡眠負債がもたらすデメリットや弊害を個別に見ていきましょう。

集中力・注意力の低下

睡眠負債の蓄積による代表的な弊害は、集中力の低下です。何となく頭がすっきりとせず、自分のベストなパフォーマンスを発揮できていないと感じている方は、睡眠負債が蓄積している可能性が高いと言えるでしょう。

米国ペンシルベニア大学医学部などの研究チームが行った研究によれば、睡眠研究に関する被験者を睡眠時間ごとにさまざまなグループ分類し、その後の経過日数によって集中力や注意力などに変化が見られるのかどうかが調べられました。
なおグループは徹夜グループ・4時間睡眠グループ・6時間睡眠グループ・8時間睡眠グループの4つに分けられたそうです。

この調査は14日間行われたのですが(徹夜組のみ早期に切り上げられたそうです)、まず当たり前ではあるものの、徹夜を行ったグループのテスト結果(反応速度を図るテスト)が最も悪く初日、2日目で急激に成績が悪化したそうです。
しかし意外なのはここからで、4時間睡眠のグループや6時間睡眠のグループも日ごとパフォーマンスが落ちていき、4時間睡眠のグループは6日目で徹夜グループの1日目と同じ結果、また6時間睡眠のグループも10日ほどで1日徹夜をしたのと同じくらいまでパフォーマンスが悪化してしまったのです。

この研究でも徹夜グループは自分のパフォーマンスの低下をはっきりと自覚していましたが、6時間睡眠のグループはテスト結果を見るまで自分のパフォーマンスの低下に気付かなかったという結果になっています。

がんリスクの高まり

睡眠負債の蓄積は、集中力や注意力を削っていくだけではありません。身体全体のパフォーマンスに対してダメージを与えるため、免疫系にも大きな悪影響があると言われており、その結果起こるのががんや認知症リスクの高まりです。

例えば、宮城県の女性2万人以上を対象に東北大学が行った調査では、睡眠不足と乳がんの関連性が調べられました。調査は7年間に渡る追跡調査として行われ、睡眠時間と乳がんの発症リスクの関係を調べたられました。その結果、平均睡眠時間が7時間の人に比較して、平均睡眠時間が6時間以下の人は、乳がんの発症リスクが約1.6倍も高かったのです。

その他に、2014年に米シカゴ大学などの研究チームによって、マウスに対する睡眠不足実験の結果が発表されたのですが、意図的に睡眠不足状態にされたマウスはがん細胞の増殖速度が高くなってしまったのです。詳しく調べられた結果、癌細胞自体の増殖スピードが活性化したというよりも、それを抑制してくれるはずの免疫細胞の働きが慢性的な睡眠不足によって鈍くなってしまっていることが突き止められました。
むしろ、免責細胞ががん細胞の増殖を助けるようなふるまいまでしてしまったそうです。

認知症リスクの高まり

睡眠負債の蓄積による健康リスクの増加としては、がん以外に認知症やアルツハイマー病の問題も見逃せません。米スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所長の西野精治教授らの研究によって、睡眠には脳内のゴミの一種、「アミロイドベータ」が排出される働きがあることが突き止められました。

このアミロイドベータはアルツハイマー病の原因物質です。20年から30年ほどかけて脳内にゆっくりと蓄積されていくことで、アルツハイマー病を引き起こすと言われています。人間の脳が働いている以上、アミロイドベータが脳内で生産されてしまうのは仕方がありません。しかし健常な生活を営んでいれば、夜間の睡眠時にそれが脳内から排出されていきます。
睡眠不足が続いてしまうと脳内の掃除(排出作用)が行き届かず、この物質が脳内に残ってしまって蓄積、そして認知症の原因となってしまいます。

肥満や糖尿病のリスク

健康リスクに関しては、睡眠負債の蓄積は肥満や糖尿病などの生活習慣病とも密接な関わりを持っています。
まず肥満との関係ですが、米国ペンシルベニア州が1344名を対象に行った追跡調査では、肥満と睡眠時間との間に優位な関係があり、特に睡眠時間が7時間を切るとどんどんとBMIの数値が上がっていく傾向が見られたそうです。

また睡眠不足が続くと血糖値を下げるホルモン、インスリンの働きが鈍ってきてしまうという研究結果もあり、このことが糖尿病につながると言われています。

自分が睡眠負債かどうかテストする

睡眠負債の弊害やデメリットが分かったところで、自分が睡眠負債の状態にあるのかどうか見極めるための方法を見ていきましょう。
実際に睡眠外来などで調べられる最もポピュラーな調べ方は、「寝だめ」が起きるかどうかのチェックです。NHKの特番内でも同じ方法が紹介されていました。

方法は簡単で、週末などの休日前の夜に完全に光が入ってこないように遮断された寝室を用意し(カーテンの隙間からの光も好ましくありません)、時計やスマートフォン・携帯電話など時間のわかるものを手元に置かずに寝てみることです。ここからがポイントですが、翌朝は眠気がなくなるまでぐっすりと寝ます。眠気が残っているようなら二度寝して大丈夫です。
この時、睡眠時間がいつもより長くなってしまうようであれば睡眠負債が蓄積されていると言えます。身体が睡眠負債の蓄積を行おうと多めに寝ようとするからです。特に2時間以上普段よりも寝てしまうようであれば、睡眠負債が蓄積されているといってよいでしょう。

アテネ不眠尺度による診断

また上記のような実験をしなくとも、簡単な診断テストを行うことでも睡眠負債が蓄積しているかどうか推測することは可能です。世界保健機関(WHO)も作成に携わったアテネ不眠テストと呼ばれる診断テストが存在し、合計点が4点位以上だと睡眠負債を抱えている可能性が高くなってきます。6点以上で特にその可能性が高いと言えるでしょう。

アテネ不眠尺度
Q過去1ヶ月間で下記の症状に当てはまりますか?

1.ベッドに入って眠るまでに必要な時間は?
・いつも寝つきは良かった(0点)
・いつもより少し時間がかかった(1点)
・いつもいり時間がかかった(2点)
・いつもいりかなり時間がかかった、眠れなかった(3点)

2.夜、眠っている途中に目がさめることは?
・問題になるほどではなかった(0点)
・少し困ることがあった(1点)
・なかり困ることがあった(2点)
・深刻な状態、もしくは眠れなかった(3点)

3.希望する起床時間よりも早く目覚め、それ以上眠れなくなることは?
・そのようなことはなかった(0点)
・少し早かった(1点)
・かなり早かった(2点)
・非常に早かった、もしくはほとんど眠れなかった(3点)

4.睡眠時間は足りている?
・十分である(0点)
・少し足りない(1点)
・かなり足りない(2点)
・非常に足りていない、もしくは眠れなかった(3点)

5.全体的な睡眠の質についてどう感じている?
・満足している(0点)
・少し不満である(1点)
・かなり不満である(2点)
・非常に不満、もしくは眠れなかった(3点)

6.日中の気分はどう?
・いつも通りだった(0点)
・少しめいった(1点)
・かなりめいった(2点)
・非常にめいった(3点)

7.日中の身体的および精神的な活動については?
・いつも通りだった(0点)
・少し低下した(1点)
・かなり低下した(2点)
・非常に低下した(3点)

8.日中の眠気はどう?
・全くない(0点)
・少しある(1点)
・かなりある(2点)
・激しい(3点)

その他の症状による診断

本格的な診断ではありませんが、以下のような傾向がある人も睡眠負債の蓄積を疑ったほうが良いでしょう。まず1つは寝つきが良すぎる場合で、普通人はよる就寝しようとベッドに入ってから10分〜15分ほどは寝付くまでに時間が必要です。しかしそうした時間が一切不要でいつもすぐに寝付くのであれば、潜在的に睡眠時間が不足している可能性があります。
また、休日はつい いつもよりも寝てしまうという方も睡眠負債が蓄積している可能性が高いです。

睡眠負債の解消・返済をどう行うか

睡眠負債の弊害や、自分に睡眠負債が蓄積しているかどうかの判別方法が分かったところで、その解消方法を見ていきましょう。
基本的に睡眠時間がそもそも不足している場合は、睡眠時間を増やしていくしかないのですが、そのためにもいくつかのコツが存在します。

太陽光を浴びることによる体内時計の調整

かねてから言われていますが、人間の体内時計は綺麗な24時間のリズムになっていません。よく体内時計は25時間周期で、放っておくと1日1時間ずつずれていくと言われていますが、必ずしも25時間というわけではなく、24.2時間〜25.5時間くらいの幅で人によってばらつきがあるそうです。また日本人の場合、24.2時間くらいという方が一番多いと言われています。

そして、この体内時計のズレは太陽光を浴びることによって解消が可能です。人体は脳内の松果体というところから、メラトニンというホルモンが分泌される仕組みになっており、このメラトニンが眠気を誘発するのですがメラトニンは強い光を浴びると分泌がとまり暗くなると分泌が始まるという性質を持っています。そしてこの光によってメラトニンの分泌が止まるタイミングを”朝として”体内時計のリセットが行われます。

こうすることで規則正しく眠れるようになりますし、またメラトニンは光でストップしてから16時間後に分泌されやすくなるので、ちょうど寝るタイミングで再び眠気が襲ってきて、深眠りに入れます。

寝室を適温に保つ

眠りの質を高めて睡眠負債を解消するためには、寝室の環境管理も大切です。きちんと暗い環境で寝ることも大事なのですが、夏場は特に暑さの問題が大きいと言えるでしょう。よくエアコンをつけっぱなしで寝るのは良くないと言われていましたが、決してそのようなことはありません。
エアコンの冷たい風が体に直接当たるのは問題ですが、そうでなければエアコンをつけたまま寝ても構わないのです。

ただし除湿などの場合、空気が乾燥しすぎてしまうこともあるので、乾燥を感じるようであればマスクをして寝たり寝る前に水を飲んだりしても良いでしょう。

眠るときの姿勢に気をつける

普段の寝相が仰向けで寝苦しいものを感じているのであれば、うつ伏せになって寝ることを試してみても良いでしょう。完全なうつ伏せになってしまうと、呼吸が苦しくなるので、体はうつ伏せの状態にしながら顔は左右の楽な方をむくことがポイントです。
うつ伏せになることによって人は自然と気道が開き、腹式呼吸も楽にできるようになります。そのため睡眠中の呼吸が楽になるのです。

眠る前にPCやスマートフォン、テレビを見ない

眠る直前までPCやスマートフォンをいじってしまうという人は多いと思いますが、好ましい習慣ではありません。強い光は脳を活性化させてしまうので、どうしても眠りの質が悪く同じ睡眠時間でも睡眠負債がたまりやすくなってしまうからです。
夜眠る前の過ごし方としては読書や参考書などを用いた勉強が良いでしょう。寝る前の勉強は記憶の定着率も良いため勉強自体の学習効果も高く、ディスプレイの強い光に触れることもないので自然と脳がリラックスしていきます。

なお入浴は就寝の1時間前までに済ませるようにすると良いです。入浴後に徐々に体温が下がるのですが、1時間〜2時間ほど経ったくらいの体温が最も入眠に適した体温です。夜寝る1〜2時間ほどまでに入浴し、その後をこうした時間に当てると良いでしょう。漫画や雑誌を読む時間にしてもよいですが、スマートフォンではなく紙のものを読むようにしてください。

以上、睡眠負債やその解消法についてお届けしました。

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