事例で理解する、新事業承継税制の実務と留意点(BAC参加報告)


今年、2018年4月から新事業承継税制がスタートしました。従来の制度に比較し、納税が猶予される範囲が拡大したこともあって、中小企業経営者やその一族の方、また事業承継の支援者の方々から大きな注目を集めたニュースとなりました。
また新しい事業承継税制では、従来制度と比べて制度の適用要件に関して様々な緩和が盛り込まれ、とても使いやすくなったと言われています。

しかし、現状でも適用要件に関してはまだまだ留意するべき点が多く、一歩間違えると大きなトラブルに発展しかねない危険性も孕んでいます。この点には事業承継の当事者たる中小企業経営者やその後継者、また事業承継の支援者は注意を払うべきでしょう。
そこで今回は2018年10月12日にビジネス会計人クラブ(BAC)にて開催されました、「実例で理解する‐ 新事業承継税制の実務と留意点」をテーマとした第249回定例会の参加報告をお届けします。

講師・当日テーマ紹介

【講師】
城所会計事務所 公認会計士・税理士 城所 弘明氏

【主な講演内容】
・新事業承継税制の基本から学ぶ(条文構成と要件)
・手続き上の実務のポイント
~特例承継計画、認定申請、贈与等~
・実務活用がGOODなケース
~適用が有利な例、変化する今後の事業承継スキーム~
・実務活用がBADなケース
~活用に適さない例、活用の必要がない例~
・必要不可欠な専門家との連携 ~特例承継計画の作成~

納税猶予制度のおける制度の根幹は変わっていない

まず、今回の事業承継税制に関してですが、制度の根幹は特に変わっていません。特例という言葉がついただけになります。
贈与者が死亡した場合の、贈与した株式についての規定も変更ないですし、贈与時に、贈与者が代表権を有していてはいけないというのも変わっていません。

猶予される範囲の拡大

ただ、多くの方がご存知のように、これまで全株式の2/3の範囲に対して、80%の納税が猶予されていたのが、全ての株式に対して、100%の納税が猶予されるようになったので、経済的なインパクトは大きいと言えるでしょう。
またこれまでは計算が面倒だったのですが、誰にでもわかりやすくなったので、その点も好評価となっています。

後継者の要件に関する大きな変更

猶予される額の問題以外にも大きく変わった点である、後継者に関する点について、より詳しく見ていきましょう。
特に大きな変更としては、後継者を1人に絞らなくて良くなったということがあげられます。後継者は3人まで設定でき、それぞれに特例が使えるようになったからです。

また特例制度として、先代経営者の存在とその人からの贈与を前提とした上で、他の贈与者からの贈与分も猶予の対象となります。つまり、例えばの場合として、先代経営者たる父親と、代表権に関与していない叔父の両方から贈与を受け、両方の贈与に納税の猶予を受けられるということです。

制度の適用に関するありがちな問題や注意点

次に、制度の適用に関するありがちな問題や注意点を見ていきましょう。

情報の散逸

一般の方の相続でも、例えば被相続人がどこの銀行や証券会社と付き合いがあったのか、相続人の誰も把握していない、把握漏れがあるというようなことがあります。事業承継の場合も同様で、株券が紙だったりすると、誰がどれくらい持っているのかという情報が曖昧になっている場合があるのです。
その場合、まず現状把握だけでも相当な労力を要します。

専門家への依頼料

制度を利用した場合、贈与から5年間は毎年、その後は3年に1回報告書を提出しなければなりません。作成は多くの場合外部の専門家へ依頼されますが、その料金も積もればバカにできません。

後継者は途中で変更できる

実は、現在の制度では、特例承継計画を出し直すだけで後継者の途中変更も可能です。10年以内に、代表権は譲らなければならないのですが、猶予期間が生まれました。

株価対策は行っておいた方が良い

今回の改正で、全ての株式が納税猶予の対象になったので、株価対策を一切する必要がなくなったとお考えの方もいますが、決してそうではありません。
なぜなら相続人全体が相続税を負担する際には、納税が猶予される自社株も含めて相続財産が計算されるからです。そのため、自社株以外の財産がそれほど多くない場合、自社株の株価次第で適用される相続税率が変わってしまうかもしれないのです。

こうした点も踏まえて、納税猶予制度の適用とは別に株価対策を行った方が良い場合が多くあります。

後継者が先に亡くなる可能性への注意も必要

注意したい点として、後継者が先になくなってしまうような場合です。老老介護の問題などは社会的に大きな問題となっていますが、事業承継の分野でも現経営者が80代、後継者が50代というような場合、病気などで後継者の方が現経営者よりも先に亡くなってしまうことが残念ながらあり得てしまいます。

こういう場合ですが、まず贈与自体は先に住んでいるので、納税の猶予含めて問題になりません。そして次の後継者が、相続税の納税猶予制度を使えれば、さらなる次世代への承継でも納税は猶予されます。

申請書記載時の注意点

制度の利用には、申請書の記載と提出が必要になりますが、ここに記載する後継者は後から変更申請できるので、気軽には書いても良いとは言えませんが、変更はしても良いのだと思っておきましょう。そのことが後継者に対する適度なプレッシャーにもなります。
また後継者は3人指定できるので、3名の名前を書き後で1人だけ失格にするということも可能です。

なお、届出の際には経営に関する計画書も提出しますが、あくまでも計画なので必ずしもその通りに経営が進まなくても構いません。

10年間の時限立法である

次の次の代への事業承継時に、納税が発生する可能性があります。

適用をした方が良い場合と、そうでない場合

必ずしも全ての中小企業が、この制度の適用を受けた方が良いとは限りません。この制度の良いところは、親族からの株式の集約にも使えるところであり、そうした事情がある場合は良いでしょう。また株価が高く、納税資金に困っているような場合も有用です。

しかし、株価が非常に低いような場合や、経営者と後継者が不仲な場合、また他の推定相続人から遺留分の請求されそうな場合などは、制度の利用に慎重になった方が良いでしょう。

実際の良い事例

ある企業で、業界自体が様々な事情によって後継者を見つけづらい状況に陥ってました。そのため社長には3人の娘がいましたが、娘は誰も継がず、長女と次女の夫も拒否、しかし3女の夫だけは後継者となることを引き受けてくれたという事例がありました。

そこで社長は感激し、3女の夫に全て株式を譲りたくなったのですが、三女の夫が養子縁組することには、姉2人が大反対し失敗します。そのため、三女に株式を譲る形で落ち着けるしかないと諦めていたところ、今回の特例制度では納税を猶予して三女の夫に直接株式を送れるようになりました。

特例の適用が適していた事例と言えるでしょう

特例の活用に問題のあるケース

具体的な事例ではありませんが、下記のような場合は特例の適用に課題が多く発生します。

まず、後継者がまだ半人前な時にこの制度を使ってしまい、後継者が「俺が後継者だ」と得意になって油断するような場合があり得ます。また、後継者以外の推定相続人から遺留分減殺請求を 受けてしまう可能性の有無は重要なポイントになります。

深刻化する遺留分の問題

納税猶予の対象となる株式が2/3ではなく全部になったため、全て贈与されることが多くなり、特別受益が大きくなります。
こうした特別受益は、相続分に合算されるため遺留分減殺請求の可能性が高くなります。

以上、2018年10月12日にビジネス会計人クラブ(BAC)にて開催されました、「実例で理解する‐ 新事業承継税制の実務と留意点」をテーマとした第249回定例会の参加報告をお届けしました。
事業承継分野の専門家や支援者をお探しの方は、相続tokyoでもご紹介を行っていますので、お気軽にご相談ください。


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