税理士事務所・会計事務所のIT・AI(RPA)活用事情


「IT革命」なんて言葉が使われたのはもう20年近くも前になりますが、当時、定型業務が多い税務・会計の仕事はすぐにITに置き換えられて、税理士・会計士の仕事は21世紀の初頭には無くなってしまうと言われていました。
ただこの20年間、予想されていたことや予想外のことも含めて様々な技術が起きましたが、業界的には幸い(?)仕事がなくなるような事態にはまだなってしません。

しかし、近年のAI(人口頭脳)の技術進歩によって、いよいよ定型業務は完全に機械に置き換えられるようになると言われています。
こんな時代に税理士事務所や会計事務所はどのようにITやAI、そしてRPA(※)に向き合ったら良いのか、実際の事例をもとに見ていきましょう。

(相続tokyoのスタッフが参加した、2019年12月11日のビジネス会計人クラブのセミナーを参考にお届けしています。)

※RPAとは、「Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション」の略語でデスクワーク、特に定型的な業務をIT技術やAI、ロボットを活用して自動化することです。

大手の事務でIT化に苦戦する理由

今回のセミナーは、昔から事業を継続し合併を繰り返して成長してきた業界でも最大手の辻・本郷税理士法人の執行役員 経営企画室 室長 黒仁田 健氏と、新進気鋭の2012年に設立されて急成長しているはぎぐち公認会計士・税理士事務所 代表 萩口 義治氏という対照的なお二人のパネルディスカッションです。
そのため、新しい事務所ならではの工夫や、大手の事務所らしい課題が浮き彫りになる内容でした。

特に興味深かったことの1つが、大手の事務所におけるIT化の難しさです。
近年中小企業の後継者不足と事業承継が大きな課題となっていますが、税理士事務所や会計事務所も他人事ではありません。全国で後継者部材に悩む事務所は多く存在します。そして辻本郷はそうした事務所をM&Aで買収し、拡大してきました。

そのことは規模を拡大できる辻本郷にとっても、雇用や顧客へのサービス提供を維持できる売却側にとってもメリットのあることなのですが、副作用として業務の統一化にとても苦労されているとのことです。
例えば会計ソフト1つとっても、統一化を試みたものの、様々な形の抵抗にあって諦めたとのことでした。現在は会計ソフトだけで50種類ほど使われており、課題となっているそうです。

ただ、その状況に対して手をこまねいている訳ではなく、できることから取り組むことで着実な成果も出しているのが辻本郷の凄さでしょう。

辻本郷の地道な業務のIT化やRPA活用

会計ソフトの統一化は一旦諦めた辻本郷ですが、現在はかなり力を入れて証憑のスキャンという入力前段階作業の統一化に力を入れています。こちらも残念ながら指示をしただけではなかなか動いてくれないので、「医療費のみ」はじめはかなり分野を絞って取り組まれているそうです。

また記帳代行に関しては、関連会社と協力し非常に使い勝手の良いRPAソフトの開発にも成功しました。特に今は消費税の軽減税率制度にとって、1つのレシートの中に税率の違う項目が混じっていることがあるので、とても入力作業が煩雑になっています。
そのプロセスをスキャンor撮影だけで自動化できるので、かなり業務の効率化に成功しているようです。

ITを活用した教育体制の構築

また、これは業界内の方には有名なことなのでそのまま書いてしまうのですが、辻本郷といえば相当なハードワークで有名な事務所です。
そのため、最近のワークライフバランス追求志向の中、採用側としてはあまり良くない評判を流されたりすることがありました。特に近年は人手不足も深刻なため、これは大きな課題であると経営陣にも認識されるようになったのです。

そこで様々な働き方改革の取り組みが行われているのですが、その1つがこれまで土曜日に定期的に行われていた研修を廃止し、代わりに月曜の朝に職員が一斉に受けるWEBテストを導入しました。
税理士や会計士、またその事務所職員は専門職であり、専門家として毎年改正される最新の税制へのフォローアップや、新しいコンサルティングのコンセプトや事例・スキームの勉強は大切です。しかし、それを休日に集合研修で身につけてもらうおうとするとのは時代に合ってないと思われたのかもしれません。
なお、このテストの成果ですが、想像以上に良かったとのことです。座学で一方的な研修を受けるよりも、テストされる前提なので各自の個人学習に身が入るようで、高い成果を上げており、このシステムは一般化して他の事務所へ販売することも検討しているようです。

面談管理だけは早期に統一化

また学習システムの他にも力を入れたのが、顧客との面談管理の統一化です。
税務・会計そのものは付加価値を生まない業務とみなされるようになっていくからこそ、顧客の状況に応じた提案が重要になりますが、一職員が全ての分野の課題解決に通じているということはありません。

そこで、面談でニーズを確認したらあとは専門担当者に繋ぎやすくするということを目的に面談管理のシステムを作成しました。業務日報も選択式やチェックボックスで入力可能で、スマホからも作れるので負担なく作業に取り組めるよう工夫されています。

新規の事務所のIT・AI化は成果が大きい

一方、まだ開業して数年しか経っていない萩口氏の事務所ですが、こちらは開業当初からIT化を視野に入れ業務の改善に取り組んできました。

そしてその効率化の道のりは苦労の連続でなかなか上手くいかなったらしいのですが、ITに関心の高い職員の入社後一気に状況が改善したとのことです。
成果としては繁忙期で40時間ほどあった残業時間を15時間ほどに短縮させることができました。

特に意識されたのは、ITでできることは限界があると素直に受け止めて、ITの業務範囲をまずは明確化し、次に人間の業務範囲を定めるというふうにされたことです。
例えば、スキャンデータを自動で記帳してくれるソフトを使えば、簿記を知らない人でも1次入力は可能です。そしてそのデータができてからが簿記のわかる人の仕事になるのですが、簿記を知らない人でもできる作業ができるので、採用的にも助かるとのことでした。

以上、税理士事務所・会計士事務所のIT・AI(RPA)活用の最新動向をお届けしました。


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