所得2000万円以上か資産3億円以上は提出必須となった財産債務調書


日本の税制は、法人税は減税、所得税や相続税という個人課税は増税という流れになっています。所得税や相続税という個人課税の増税にも伴い、課税当局による富裕層への監視が強化されています。
一時期、富裕層の海外逃避やキャプタルフライトなどが話題になりました。そうした動きは課税当局も気にしていて、違法な形での相続税や贈与税逃れを見逃さないよう、注意を払っているのです。

そうした課税強化の動きの一つが重点管理富裕層の指定であり、また今回の記事でお伝えする「財産債務調書制度」の創設です。財産債務調書制度は、平成27年度確定申告より対象者には提出が義務化されるようになりました。従来は、所得金額2千万円超の人が確定申告書と一緒に提出していた「財産及び債務の明細書」という提出書類がありましたが、所得税・相続税の申告の適正性を確保する観点から、「財産及び債務の明細書」を見直し、創設されたものです。
「財産債務調書制度」の提出者は、いわゆる海外移転への含み益課税を課す「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」の潜在的適用者として税務当局に把握されることになります。

今回の記事ではこの制度の概要をお届けします。

財産債務調書制度とは?

まず、財産債務調書制度とはどういった制度かを説明します。
財産債務調書制度は、所得が2千万円を超え、かつ、その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産を有する人に「財産債務著書」の提出を義務付けているものです。記載内容は、その財産の種類、数量及び価額(「時価」又は時価に準ずるものとして「見積価額」により記載する)並びに債務の金額その他必要な事項です。
毎年3月15日までに、前年の12月31日段階の情報に基づいて提出をしなければなりません。確定申告書の提出期限と同じですので、所得税の確定申告書の提出と合わせて税務署へ提出するということになります。

このように、所得税などの確定申告義務者で、「所得金額2000万円以上」という所得基準と「総資産3億円以上または保有有価証券など1億円以上」という資産基準の両方を満たす人が対象となりますが、国税庁によれば、全国で38万人の対象者がいると言われています。

なお、提出する財産や債務の情報についてですが、土地建物など不動産や現預金、有価証券、骨董品や貴金属、また借入金や未払金など財産や債務に該当するものは全て申告用紙に記入し提出しなければなりません。
また所在の記載も必要ですし、時価の正確な記載も求められます。

既に平成27年度の確定申告において制度の開始が既に始まっているので「財産債務著書」を作成したこともある税理士や会計事務所も多いのですが、実感値として相続税の申告書類の4〜5割くらいの時間・労力がかかるとの声もあり、気軽に終えられる作業量ではないと言われています。
国税庁の指針により、時価(相続税を計算する際の「財産評価基本通達」に基づいて評価したものでもOK)の他に、時価に準ずるものとして「見積価額」によることも認められていますので、相続税の申告書類と比較しては、負担は若干軽減されるようになっています。例えば、土地の評価は固定資産税評価が認められていますので、路線価表を見て計算しなくても固定資産税通知書を見て金額を記載すれば足りるということになります。

財産債務調書と財産及び債務の明細書の違い

冒頭でも触れましたが、従来、1年間の所得の合計額が2000万円を超える場合は、確定申告と同時に「財産及び債務の明細書」という書類の提出が求められていました。この制度が、財産債務調書制度に置き換わったのですが、どういった変更点があるのか見てみましょう。

①規定する法律が、所得税法から国外送金等調書法へ

「財産及び債務の明細書」の提出は所得税法に規定されていました。しかし、財産債務調書制度は、国外送金等調書法が規定する制度になります。国外財産調書制度という5000万円以上の海外資産を保有する人は、その詳細を税務署に対して届け出なければいけないという制度がありますが、この制度も国外送金等調書法の規定に基づいており、以前の財産及び債務の明細書よりは、国外財産調書制度の類似制度という整理になっています。
書類への記載内容は、財産及び債務の明細書の頃より多くなりました。

②提出義務の判定に「財産額基準」が追加

財産及び債務の明細書は所得基準(年間2000万円以上)のみが、その提出義務があるかないかの判定基準となっていました。しかし、財産債務調書は同様の所得基準に加えて、財産額基準(資産3億円以上、もしくは有価証券1億円以上)も満たす人が対象になりました。
そのため、制度の対象者は少なくなったと言えます。

③過少申告加算税などの加減算措置の追加

これまでの財産及び債務の明細書には、未提出に関する明確な罰則がありませんでした。そのため、「提出するにしても適当に記載しておけばいいもの」と税理士達の間では言われていましたし、未提出者も対象者全体のうちの4割に達していたほどです。
財産債務調書制度となっても未提出の場合においても、直接的な罰則はありませんが、所得税の過少申告があった場合の加算税で、申告の有無により加算源措置が講じられます。所得税の税務調査などで財産債務調書に課税漏れなどの誤りがあったケースでは、財産債務調書への記載の有無で、加算税等の特例として5%の加重・軽減を設けています。

(1) 財産債務調書に記載がある部分については、過少(無)申告加算税を5%軽減します(所得税・相続税)。
(2) 財産債務調書の不提出・記載不備に係る部分については、過少(無)申告加算税を5%加重します(所得税)。

罰則が全くなかった以前よりも厳しくなったと言えるでしょう。
資産内容をちゃんと財産債務調書に記載していれば所得税・相続税で誤りがあった時に過少(無)申告加算税を5%軽減する代わり、不提出・記載不備に係る部分については、過少(無)申告加算税を5%加重するということで、アメとムチを使いながら、対象者への提出を促していると見ることが出来ます。
提出をしない場合や記載漏れについては、税務リスクも留意すべきでしょう。

④税務調査の対象

財産債務調書の提出を規定する国外送金調書法7条2項において下記のように質問検査権を定めています。

(引用始まり)
2  国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、国外財産調書又は財産債務調書の提出に関する調査について必要があるときは、当該国外財産調書若しくは財産債務調書を提出する義務がある者(当該国外財産調書又は財産債務調書を提出する義務があると認められる者を含む。)に質問し、その者の国外財産若しくは財産及び債務に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる。
(引用終わり)

内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
(平成九年十二月五日法律第百十号)

このため、財産債務調書制度の提出内容はいわゆる税務調査の対象となります。そして調査対象となった人は、法律に則った調査である限り、当局には質問検査権があります。検査の拒否・妨害や正当な理由のない拒否をする等については、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される罰則規定が設けられています。

以上が財産債務調書のあらましとなります。


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