税制改正のトレンドに見る富裕層・高所得層のへの課税強化と節税の抑制


近年、日本に限らず世界中で貧富の格差拡大が大きな問題となっており、毎年のように形を変えて様々な提言があらゆるところから挙げられるようになっています。

1989年に冷戦が終結されるまでは、国際的な貧富の格差問題は、南北問題と言われる裕福な北半球の先進国(西欧と米国、日本)と、南半球の発展途上国(アフリカや南米の各国)の間の格差問題のように、国ごとの格差として現れていましたが、冷戦終結後の経済のグローバル化と、各国で進んだ投資とビジネスの自由化の過程を通して、国家間の格差問題は依然として大きな問題ではあるものの、各国内での国内格差も急拡大し、それもまた大きな問題となりました。
またグーバルに展開する多国籍企業や富裕層などが、各国の税制や法制度の違いをうまく活用した節税スキームを開発し、大幅な節税に成功していたことも大変問題視されるようになっています。

そしてこのような格差是正のため、富裕層への課税は各国で真剣に議論されています。ただ、いきなり富裕層への税率を上げると富裕層や企業の海外移転につながってしまうため(※)、まずは富裕層が行う節税の抑制に各国は力を注ぎ始めています。
日本でもその傾向は顕著で、それは近年の税制改正のトレンドにも表れています。

(※)フランスで2013年に所得税の最高税率が75%に引き上げられましたが、俳優やスポーツ選手などのセレブを中心に脱フランスの動きが加速したため、2年ほどで廃止となりました)

2020年から導入された所得税基礎控除・給与所得控除の所得制限

日本での富裕層への課税強化の例として、2018年の税制改正で決まり2020年から導入された所得税基礎控除の所得制限があげられるでしょう
日本の所得税の仕組みでは、基礎控除と言って所得税の計算の際に総合所得から一定額を控除して、課税所得金額を計算することができます。そしてこの基礎控除の金額は2019年の所得までは一律で38万円だったのですが、2020年の所得からは合計所得金額が2400万円以下の方は48万円、そして所得がそれを超える方は段階的に引き下げられ、2,500万円超 で0円となります。

基礎控除

国税庁より

また、基礎控除の他に給与所得控除と言って、給与所得から所得税・住民税の課税時に行われる控除があるのですが、こちらは全所得帯で引き下げられました。ただし高所得層の方がより大きく引き下げられています。

給与所得控除

国税庁より

税率の変更ではありませんが、富裕層・高所得層への課税強化と言えるでしょう。

一括贈与の非課税制度の適用要件を厳しく

近年日本では、あまり消費を行わない高齢者層への資産の集中が問題となっていまして、そうした背景があることから2013年に教育資金や結婚・子育て資金を子や孫へ贈与した場合の非課税制度が創設されました。
教育資金の贈与は、29歳以下の子や孫を対象に、学校の授業料や学習塾の費用などに充てるのを条件に1人当たり1500万円まで非課税で贈与できるというものです。まら、結婚・子育て資金の贈与は20歳以上49歳以下の子や孫に対して、挙式や出産費用などに充てることを条件に、1人当たり1000万円まで非課税で贈与できるというものです。

しかし両制度とも、富裕層による相続税対策のための過度な利用が問題視されるようになってきました。複数の孫に対して満額で贈与を行い、多い場合は1億円も相続財産を贈与によって減らす例などがあったからです。
そのため、2021年度の税制改正にて、単純な節税のためには使いづらくなるような変更が盛り込まれました。

まず、教育資金の贈与では、祖父母など贈与者が死亡する前の贈与の使い残し分が、これまでと異なって相続財産に加算される事になります(23歳以上や学校などへ通っていない子や孫への贈与が対象)。
また、孫への教育資金で贈与者が死亡したとき使い残しがあれば、孫が相続などで資産を取得したとみなされ、孫にかかる相続税は2割加算されことになります。
さらに、結婚・子育て資金でも同じ仕組みを設けられるため、孫を使った財産減らしに大きな抑制効果が見込まれるでしょう。

住宅ローン控除を活用した不動産投資の抑制

貧富の格差がなぜ問題かといえば、貧困層の生活保障という問題もありますが、格差が固定化しやすいからです。収入を生活資金に充てるしかない貧困層の生活はそのままですが、収入や資産に余裕のある富裕層はその余剰を投資に回し、さらに資産を拡大することが可能です。

こうした現象の抑制、少なくとも後押しを止めるために2021年度の税制改正に盛り込まれたのが、住宅ローン控除制度の変更です。住宅ローン控除は元々持ち家の取得を後押しするためのものでしたが、一部の方の間で実際に賃貸に住んだり別の家(親族の所有不動産など)に居住しながら、住宅ローン控除を用いてローンを組んで不動産を購入し、それを貸し出して家賃収入を得る不動産投資を行う方がいました。
この方法を用いれば、通常よりも有利な条件で不動産投資を行えてしまいます。

今回の変更では、本来の趣旨に沿って利用者が使いやすくするために、住宅の面積要件を現行の50平方メートル以上から40平方メートル以上に緩和される一方、40平方メートル以上50平方メートル未満の住宅は、所得要件を1000万円以下と50平方メートル以上の場合の3000万円以下より厳しくされます。


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