ポケモンGOの経済効果が10兆円は本当か?


全世界で記録的なヒットとなったスマートフォン用のAR(拡張現実)ゲーム「ポケモンGO」が2016年7月22日に日本でも配信開始されました。アメリカで先行スタートしていたポケモンGOですが、ポケモンはもともとは日本生まれのコンテンツということもあって日本でも爆発的な人気を博しています。配信開始日が金曜日の日中であったため、金曜の夜から土日にかけて利用開始する人が多かったのでしょう。特に都内ではゲームの関連スポットも多いため、すれ違う人のうち結構な割合の方がスマートフォンをいじりゲームに夢中になっている光景が散見されました。普段ゲームに関心のない方には、驚きの光景だったでしょう。

あまりの人気ぶりと、これまでのスマートフォンゲームと異なり外出を促す仕組みが採用されていることなどから、ポケモンGOにはリニア新幹線開通に匹敵する10兆円規模の経済効果があるという経済学者まで現れるようになりました。
ポケモンGOの人気がこのまま続くのかどうかはわかりませんが、今回の記事ではポケモンGOについてとニュースで耳にする機会の多い「経済効果」についてお届けします。

ポケモンGO

もともとポケモンは任天堂が生んだ人気コンテンツです。1996年に当時はゲームボーイ用のソフトとして発売が開始され、小学生を中心に爆発的な人気ゲームとなりました。基本的な仕組みはシンプルで主人公が旅をしながら、ポケットモンスター(ポケモン)と呼ばれるモンスターを収集していくゲームです。集めたポケモンは戦うためのキャラクターに転用可能で、戦いを多くこなすことで経験値が溜まり新しい技を覚えたり、進化して別のキャラクターに成長したりするという育成要素が人気の秘密と言われています。また、集め育てたポケモンを友人と交換したり対戦させたりできるという仕組み(当時はゲームボーイ同士を有線ケーブルでつないでいました)も、人気への影響が大きかったでしょう。
その人気は日本に限らず世界的なものとなり、数々の類似ゲームも誕生しています。近年で言えば妖怪ウォッチなどが類似ゲームと言えるでしょう。親世代、シニア世代の方であれば、子どもや孫の間でブームなのでごご存知の方もいるかもしれません。

そのポケモンが今度はスマートフォンによるAR(拡張現実)ゲームとして登場し、再び世界的な大ヒットとなっています。特に、拡張現実の機能により、今回のポケモンGOではGPS機能を使いプレイヤー自身が実際に物理的にどの位置にいるのかによって出会えるポケモンが変わる仕様になりました。そのため、希望のポケモンを捕まえようとすれば広く外出しなければなりません。このことが、ポケモンGOの経済効果が大きいと言われるゆえんです。

ポケモンGOの経済効果

一般的なゲームのように自宅だけで完結する仕様であった場合、そうした経済効果はなかったでしょう。すでにマクドナルドがプレイヤーのためのポケモン対戦スポットとして登録されるなど、リアルビジネスどの連動が始まっています。今後は、観光地との連携や各種イベントとの連携などが行われていくことでしょう。鳥取県が「ポケモンGO」を観光誘致に活用すべく、鳥取砂丘を「スナホ・ゲーム解放区」としたことによりポケモンGOのユーザーが集まる現象も起きています。

これらにより、ゲーム内だけでなく、人が移動するという現実世界にまで経済効果が及ぶことが、今までにないゲーム要素になっています。
例えば経済学者の森永卓郎氏は、その経済効果をリニア新幹線の経済効果に匹敵する10兆円と試算しています。貴重なポケモンの入手を求めてプレイヤーの移動が発生するため、その交通費や外出中の飲食費、宿泊費、並びにその波及効果がそこまで位であろうというわけです。

ただ、こうした識者の語る経済効果には注意をしなければなりません。一般的に経済効果は一次的な需要と、その需要が発生したことによる波及効果の総額を指します。
(今回の例でいえば、ポケモンの入手を求めて移動する人の交通費や食費、宿泊費が一次的な需要、そうした観光関連の需要が伸びた結果そこで働く人の給与と消費が活性化することが波及効果になります。)
今回森永氏がどういった根拠により計算をされたかは公開されていませんが、上記のうち波及効果の予測は恣意的にコントロールしやすく、状況によって過剰にも過小にも見積もることができるのです。また悪意があったかどうかに関係なく、第三者が検証したり、計算ルールが決まっているわけでもなく、波及効果を計算する際に明らかな計算ミスや二重計上をされてしまう場合も多々存在します。

この点で経済効果のニュースには気をつけたほうが良いといえるでしょう。

任天堂への影響

最後にポケモンGOの任天堂への影響を見てみましょう。

米国で7月6日にポケモンGOが公開されて以降、瞬く間に人気となり、公開からわずか1週間ほどで史上最もダウンロードされたスマートフォンゲームとなりました。ライセンス元の「ポケモン」をグループ会社に持つ任天堂の株価も高騰し、リリース前は1万5000円前後だった株価は19日に31,770円にまで上がります。

しかし、これは誤解されていた方が多かったのですが、ポケモンGOは任天堂が開発したゲームではありません。このゲームは米国法人Niantic, Inc.(Googleからのスピンアウト企業)が開発元であり、任天堂との関係で言いますと、まず任天堂が32%の議決権を保有する持分法適用会社の株式会社ポケモンがNiantic, Inc.からライセンス料及び開発運営協力に伴う対価を受け取るという関係です。
全くの無関係というわけではありませんし、株式会社ポケモンの利益の32%が持分法利益として営業外収益に計上されますので、連結業績における一定の増収効果(は見込まれるのですが、任天堂の株価が動いたほどの増収効果とは食い違う可能性があります。そのことは日本でポケモンGOのリリースが行われうタイミングに合わせて任天堂よりIR情報の公開がありました。これによると、ポケモンは持分法会社にすぎず業績に与える影響は限定的で、また、既に発表している業績予想にも折り込んでいる、と記されています。

【参考:『Pokémon GO』の配信による当社の連結業績予想への影響について

上記の任天堂のIRを受けて、19日に31,770円だった任天堂の株価は25日段階で23,220円まで急落しています。

では実際のところ、任天堂への収益貢献はどれほどになりそうなのでしょうか。
リリース直後の見込みでは、ポケモンGO単体での年間金額は4000億円ほどになるであろうと言われています。収益配分は公表されていませんが、この収益のうち、まずアプリ配信を行うAppleやGoogleが30%を手にします。そしてNiantic, Inc.が一旦70%を預かり、その後株式会社ポケモンにライセンス料などが支払われると見られています。
その金額の32%が任天堂の持分法投資利益として経常利益に含まれるわけです(営業利益には含まれません)。
Niantic, Inc.からどの程度の金額が株式会社ポケモンに支払われるのかが問題になります。残念ながらこの数字は現在公開されていません。ただ市場関係者の見方では、30%〜50%とされています。仮にその間の40%とした場合、ポケモンGOのユーザー課金額の約9%が任天堂の経常利益へ反映される分となると言えるでしょう(70%×40%×32%=8.96%≒9%)。この計算ですと、年間課金予想額4000億円のうち360億円ほどが任天堂のものになる計算です。
また、7月26日の日本経済新聞では証券アナリストの試算として、任天堂への経常利益への寄与分は130億~200億という数値が示されています。

任天堂の平成28年3月期決算での経常利益は約287億円、純利益は約165億円で、平成29年3月期の業績予想での経常利益は約450億円、純利益は350億円したので、増益分にはポケモンGOの影響が折り込まれているように見えますが、今後の盛り上がり次第では小さくない利益インパクトがもたらされる可能性はあります。

またNiantic, Inc.の株主の出資比率は公開されていないものの任天堂及びポケモンも株主に入っていると伝わっています。出資比率によっては、より多くの収益貢献が見込まれるかもしれません。

任天堂の新機種として、スマートフォンとBluetoothで接続して、スマートフォンの画面を歩行しながら見続けていなくても、ボタン操作や振動でPokémon GOをプレイできる公式のリストバンド型端末「Pokémon GO Plus」の発売も近日中に予定されており、これは任天堂の売上・利益に寄与すると見られます。

ゲーム自体の流行が今後も続いてくかどうか、またユーザーが本当に課金を続けるかどうかは予想の範囲を超えることはありません。当初予想を超えて世界的ブームになるかもしれませんし、最初こそ面白がられはしたものの飽きられて一時のブームに終わるかもしれません。
しかし、雰囲気だけでなく、こうした実際の数値での裏付けや、市場というものがどのように反応するのかということは見ておくと、投資や資産運用にも活きてくる経済を見る目が身に付くでしょう。


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