トランプ大統領の経済政策、トランプノミクスの楽観論と悲観論


米国時間11月9日、事前のメディアでの支持率や様々な識者の予想を裏切り、トランプ氏がクリントン氏を破り激戦となった米大統領選挙を制しました。予想外の事態に市場も混乱し、日本時間11月10日には日経平均が一時1000円以上も下がります。しかし、これまた事前の予想(=トランプ大統領が誕生した場合の悲観論やリスク回避予想)と異なって、米国市場はトランプ大統領の誕生を歓迎し、米国の株価は上昇しました。積極財政の見通しにより米金利も上昇、そのことによって一時急激な円高になったもののすぐにドル高円安圧力へ反転、日経平均も翌日には元の値に戻ります。
この乱高下には金融機関も混乱し、ある大手証券ではこの数日間で今後の株価見通しを何度も修正しなければならない事態となりました。

トランプ氏が今後発表し実行する政策や人事は、果たして米国経済や世界経済にどのような影響を与えるのでしょうか。選挙中の人種問題や国際問題に関する過激な発言ばかりがクローズアップされがちだったトランプ氏の経済政策=トランプノミクスとそれへの楽観論、悲観論を整理してみましょう。

トランプ大統領の経済政策=トランプノミクスとは

日本では2012年末の民主党(当時)から自民党への政権交代以降、アベノミクスという言葉は身近な言葉となりました。しかし元々この言葉は米国のレーガン大統領(任期1981-1989年)の経済政策をレーガノミクスと呼んでいたことになぞらえられて生まれた言葉です。
レーガン大統領は「強いアメリアの復活」をテーマに選挙を戦い抜き、勝利を収めました。トランプ新大統領もレーガン大統領と同じ「Make America Great Again(強いアメリカを取り戻そう)」というスローガンを用いて選挙戦を戦いぬき勝利を収めました。そのような背景もあって、トランプ大統領の経済政策は一部でトランプノミクスと呼ばれ始めています。

そんなトランプノミクスの柱は、積極的な財政政策と大幅減税です。また他にも積極的な規制緩和、特にシェールなど米国内エネルギー産業に関する規制緩和もトランプノミクスには含まれており、これらの点はレーガノミクスに近いと言えるでしょう。
こうした政策が米国市場で評価され、米国時間10日(日本時間11日)の株高に繋がります。

ただし、 トランプノミクスは全てがレーガン大統領の路線を踏襲しているわけではありません。レーガン大統領は通商政策(貿易政策)でも莫大な貿易赤字の批判を浴びつつ自由主義を貫きました。しかしトランプ氏は通商政策に関しては自由主義ではなく、保護主義的な発言を繰り返しており、NAFTA(北米自由貿易協定)にもTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも否定的です。
その他に純粋な経済政策ではありませんが、移民受け入れに関しても消極的であり、不法滞在者の強制送還を行うと言われています。
また外交政策に関しても、レーガン大統領は強硬論を唱え、軍事力の行使を含めた積極的な関与を行ってきました。しかしトランプ氏はイスラム国問題などで米兵が傷つくことや、中国と日本を含めた周辺諸国の間の領土問題などに米国が関与することに否定的です。

政策内容 詳細 取り組み 市場の反応
大幅な減税 法人税率を35%から15%に下げ、さらに10%の特別税率も設けて多国籍企業の海外資金を還流
中間層世帯を対象に35%の減税
成長強化策の柱として、政権発足後100日以内に立法化 議会共和党の協力を得られれば、早期実現も可能
当面は米株高、債券安、ドル高要因に
インフラ投資の促進 10年間で1兆ドルのインフラ投資 100日以内に官民協力での整備促進に向けた法律を立法化 民間資金の活用で財政中立をうたうが、財政悪化も
米株高・債券安要因に、財政悪化なら「米国売り」も
米国第一の通商政策 雇用の流出を防ぐため、貿易協定を米国有利に見直し
中国やメキシコ製品に高率関税も
就任初日にNAFTA再交渉・TPP脱退を宣言、中国を為替操作国に指定するよう指示 保護主義が広がる恐れ、長期的には米株安要因に
規制の緩和・撤廃 規制の徹底的な見直し、オバマ時代の金融規制を大幅に緩和へ 就任初日に、新規制を1つ導入するごとに、旧規制を2つ撤廃することを要求 過剰規制の解消が進めば、米株高要因に
国内エネルギー産業の振興 シェールなど石油・天然ガスの生産・利用を促進
石炭産業も振興
就任初日に、エネルギー産業をめぐる規制を撤廃 エネルギー株に追い風、再生可能エネルギー産業には逆風も
社会保証改革 オバマケアの撤廃、新たな仕組みの導入 100日以内に関連法を立法化 新たな仕組みの導入には時間も、ヘルスケア株に不透明感

トランプノミクスへの楽観論

トランプノミクスへの楽観論はトランプ氏が就任後すぐに取り組むと公言している大幅減税や、公共投資による米国経済の活性化です。減税では法人税率を現行の35%から15%に引き下げ、さらに一部の多国籍企業に対しては10%の特別税率を適用することで企業の活性化と、米国への国内回帰を目指そうとしています。また法人税だけではなく、所得税も減税予定となっています。

また公共投資に関しても積極的です。米国に限りませんが今先進国は第二次大戦後に作られた社会インフラの物理的な更新時期にきており、道路や河川などの老朽化が問題となっています。これに対してトランプ氏は10年間で1兆ドル規模の予算を組んで問題解決に当たるとしているのです。

その他の規制緩和政策や、エネルギー産業の振興と相まって米国経済が刺激されれば、それに影響を受ける形で資源開発・輸出に取り組む新興国の経済も活性化するでしょう。世界的な好景気に繋がる可能性があります。

トランプノミクスへの悲観論

トランプ氏の選挙中の過激な発言はあくまでも選挙パフォーマンスであって、強いリーダーシップは残しながら今後は現実路線に切り替えていくだろう、修正し成功したビジネスマンではあるが国政や外交には経験不足であるが有能なブレーンが支えて暴走することもないだろうと楽観論者は考えています。
しかし、トランプノミクスはこれから始まっていくもので具体策がどう出てくるかは予断を許すものではなく、楽観論ばかりではありません。現在トランプ氏の大統領就任に反対するデモが米国で起きていますが、一部の人たちは経済政策含めてトランプ氏の政策全般に非常に悲観的であり否定的です。

トランプノミクスへの悲観論の一番大きなところは、移民排斥や保護主義の促進などに由来すると言えます。
現在のところ、トランプ氏はオールドエコノミー寄りと見られています。
米国の経済発展の理由の一つはGoogleやAppleなどの新興企業(スタートアップ)が次々と生まれてくることです。しかし将来のGoogleやAppleになるかもしれない有望なスタートアップの多くが移民によって立ち上げられ、そして移民の力を用いていると言われており、移民の排斥はイノベーションの芽を潰しかねません。
Amazonのジェフ・べゾス氏とトランプ氏は犬猿の仲であるとも報道されています。
また通商政策における保護主義は、中国や日本をはじめとした米国への輸出が大きなウェイトを占めている国の経済にダメージを与える可能性もあります。トランプ氏はTPP反対を声高に言ってきましたので、TPPの米国離脱は避けられないでしょう。世界最大の経済規模を誇る米国が本気に保護主義に取り組んだ場合、第二次世界大戦前のように各国による保護主義政策競争が起こり、ヨーロッパの国々を中心にアメリカに倣う国が出てくる可能性もあります。そうなれば世界経済が大きく停滞するかもしれません。

経済以外の問題もあります。トランプ氏が訴えるように米国が現状より世界の警察の役目を弱めた場合、イスラム国問題の長期化や日中関係の緊張などの地政学リスクが大きくなる可能性もあります。

トランプ大統領による正式な政権の発足は来年1月以降になりますが、それまでに政策に関する主要な人事の発表などで政策の骨子は今以上に見えてきます。
今後の動向にはますます注目が集まるでしょうが、特に保護主義的政策や移民排斥などのどこまで本気だったのかなどをよく見ておくと今後の世界を占う参考になるでしょう。

以下の表は、2016年10月13日付の日経ヴェリタスに掲載された楽観シナリオ・悲観シナリオそれぞれの影響をまとめた表になります。どちらが現実化するかは、今後の動きを注視していく必要があります。

  楽観シナリオ 悲観シナリオ
政策 インフラ投資や大幅減税 TPP反対や移民排斥
 
米国経済 国内生産拡大、経済成長 労働力や投資が減少し、成長率低下
世界経済 米国需要増が波及し成長加速 貿易が停滞、成長鈍化。地政学リスクも高まる
 
金融政策 米利上げは緩やか。資源高など背景に新興国の経済成長が加速する 米国は急速なインフレ対応で利上げ加速。新興国から資金流出懸念高まる
為替 金利上昇と資金流入でドル高 米財政不安高まりドル安・円高圧力拡大
世界的な株高に リスク回避姿勢強まり世界的株安


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