節税目的の養子縁組も縁組の意思があれば合法か?


相続では、養子縁組を行うことが相続税の節税につながります。養子縁組とは、血縁関係とは無関係に人為的に戸籍上の親子関係を発生させることで、養子(ようし)にした人と親(養親)は法律的には親子関係になります。

相続税の計算時には「3000万円+600万円×法定相続人の人数」という基礎控除額の適用がありますが、法定相続人の人数が増えるほど基礎控除も拡大することになります。生命保険金や死亡退職金の非課税限度額(500万円×法定相続人の人数)、相続税の総額の計算で税率が下がるという効果もあります。
一方で、無制限に養子縁組を相続税の計算において認めてしまうと相続税回避を目的として無数に養子を広げることで相続税の支払いを逃れることも出来てしまします。そのため相続税の計算で法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定数に制限されていて養子は実子がいる場合は1名まで、実子がいない場合は2名まで基礎控除時の増加が認められています。
また、例えば孫を養子縁組する場合は相続回数を減らし、課税回数を減らす効果もあると言えるでしょう。祖父⇒親⇒孫と段階的に掛かる相続税を、祖父⇒孫と財産を後世に相続税負担を減らしつつ残すことができます。

もちろん、法的な親子関係という法律関係も変わりますし、戸籍を変えることになりますので、相続税が安くなるというだけで家族関係や心理面のハードルを越えて簡単に養子縁組をするようなことも多くはないかもしれませんが、富裕層には有効な選択肢にはなります。
また安易な養子縁組は他の相続人や親族の反発やかえって家族関係・兄弟関係の悪化を招く場合もあるでしょう。

2017年1月31日、養子縁組に関して争われていた裁判に、最高裁での判決が出たので本日はその概要をお届けします。

養子縁組の節税効果

養子縁組の節税効果については上述の通りですが、もう少し詳しくおさらいします。
相続税には基礎控除というものが存在し、相続財産から一律3000万円に加えて法定相続人1人当たり600万円の控除を行えます。こうして基礎控除を引いた後の金額を法定相続人が法定相続分にて相続した場合の金額で相続税額の総額が計算されます。そのため、法定相続人の人数が多ければ多いほど、基礎控除が増え相続税の金額は少なくなります。

ただ、そうは言っても法定相続人(実の子ども)は気軽に増やすことはできません。相続税を減らしたいことを理由に子どもを産んだり妊活に励むことはないでしょう。この相続税の基礎控除の計算対象となる法定相続人には養子も認められています。ここで注意点もあり、養子の人数が無尽蔵に認められているわけではありません。実子たる法定相続人がいる場合、基礎控除の対象となる法定相続人は1名まで、実子がいなくとも2名までしか認められていません。
(養子の人数に関係なく法定相続人としての相続権は無制限に発生します。あくまで相続税の計算上の基礎控除の適用対象人数が増えるかどうかの問題です。)

なお養子縁組では、孫を養子にする場合が多いです。見ず知らずの他人を養子にしてしまうと、その人にも遺留分が発生するため財産を取られてしまうリスクがあります。しかし孫であれば、いずれその財産を受け継ぐ相手になるので問題が少なくなります。
また相続回数を「被相続人→子→孫」の2回から「被相続人→孫(養子)」の1回に減らすことで、課税回数を減らすことによる節税効果も期待できます。

養子縁組の意思を争われた裁判

このように節税にも活用できる養子縁組ですが、節税のみを目的とした養子縁組が認められて良いのかという論争は以前からありました。
また養子縁組は慎重に行わないと相続人同士や親族間の争いの原因にもなってしまいます。例えば被相続人に複数の子がいて、そのうちの1人の子の子に当たる孫のみを養子縁組していた場合、実子たる法定相続人の1人当たりの相続分が減少してしまいます。養子に入った子の実親は良いとしても、それ以外の相続人は面白くない場合もあるでしょう。親と、子どもが3人いる場合、子どもの法定相続人は各人1/3ですが、例えば長男の子どもを養子にすると、長男と子どもは半分、他の兄弟2人は1/4になりますので、法定相続割合で長男家族が有利になります。

今回の最高裁判決の裁判では、実際にこうしたことが裁判の場でも争われており、その際には節税目的の養子縁組の有効性が論点になり、 2017年1月29日、節税目的の養子縁組の有効性がどうなるのかという点で注目を浴びていた裁判に最高裁の判決が出たのです。

本件は旧福島県東和町(現福島県二本松市)の町長だった男性の相続に関する裁判で、男性は2012年に長男の息子と養子縁組を行っていました。しかし、その後に残念ながら長男との関係性が悪化し、故人となった男性は「長男の勝手な判断だった」として養子縁組に対する離縁届まで提出していました(ただ孫側から離縁届を無効とする訴訟が提起され、男性は途中で死亡しましたが、離縁は無効化されました)。
そしてそのような状態で男性が死亡したため、男性の娘2人(男性の姉妹)が改めて養子縁組の無効を訴えて裁判を起こしていたのです。

一審は東京家裁で争われ、男性には養子縁組の意思があったとして娘等の請求を棄却します。二審の東京高裁の裁判では、今回の養子縁組は被相続人が生前に税理士から「孫を養子縁組すれば相続税の節税になる」と説明を受けたために行ったもので、純粋な養子縁組の意思はなかったと主張し、東京高裁もその主張を受け入れて縁組を無効と判断しました。
こうした背景もあって今回の最高裁判決は、「節税を目的とした養子縁組は有効か否か」という論点が重視されたため、税理士など相続に関連する専門家の注目を集めていたのです。

そして今回最高裁は「節税の動機と縁組の意思は併存し得る」として、節税目的の養子縁組であっても、縁組行う意思があるのであればその縁組は無効にならないという判断を示しました。さらに「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判決文が出ました。民法802条1号は、養子縁組について「当事者間に縁組みをする意思がないとき」は無効とする条項です。
そのため、今回の裁判に関しては当初の縁組のタイミングでは男性に縁組の意思があったとして娘等の主張を退け孫側の勝訴が確定しました。

節税目的が叶えられるかには注意も必要

ただ今回の裁判は国税不服審判所などで行われるような相続税に関する争いではなく、あくまでも一般の裁判所による遺産分割の争いの延長線上にあると言えます。そのため相続税の課税時に、節税目的のみによる養子縁組によって、相続税対策のための養子縁組いより基礎控除拡大等が認められるかは明確ではありません。

実際に相続税法の第63条には、以下のような記述があります。

(相続人の数に算入される養子の数の否認)
第六三条 第十五条第二項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)及び相続税額を計算することができる。

相続税63条によると、養子縁組をしたことにより、相続税が不当に減少する場合に養子縁組の法定相続人を増加させる相続税節減効果が否認されることになります。一方、養子縁組の目的に関わらず、養子縁組により法定相続人の人数は増加しますので、どのような場合に不当に減少に当たるかはかなり不明確です。
例えば、状況証拠として疑われそうなケースとしては、被相続人の余命が短い場合に駆け込みのように養子縁組をする、親が認知症であったことなどが考えられるでしょうか。養子縁組をしたのは相続税を減らすことだけが目的だということを示すメール等が見つかることも分が悪い材料になってしまうかもしれません。「不当」と否認するには、税務署に不当性の立証責任がありますが、何をもって「不当」と言うかも難しく、実際に否認された事例もあまり伝わっていません。

節税の意図や目的が全くなかったとしても、何かの理由で養子縁組を行うことがあるでしょう。時には孫を養子に迎えるようなこともあると思われます。
万が一、税務署が63条を持ち出した場合に備えて、きちんと養子縁組の経緯や目的を反論できる準備をしておきましょう。
その際には法律や税法に詳しい専門家を頼りたいということもあるでしょうし、相続税対策による効果が自分の家族にはどれくらいあるのかや具体的な手続きについて、ご質問ご相談には相続tokyoへお問い合わせ下さい。


【関連記事】
【相続手続きの基本を学ぶ】相続の基礎的な概念と法定相続分について
相続税と遺産分割の基本、相続財産の定義と相続税の計算方法
孫への贈与を自己信託で行うメリットとは?
遺言信託の利用を勧められたら申し込む前に考えたいその注意点
相続問題の解決に有効な信託を理解する(前編)
相続問題の解決に有効な信託を理解する(後編)


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。* が付いている欄は必須項目です。
※運営者にのみメッセージを送りたい場合は、「管理者だけに表示」にチェックを入れてください。