世界経済の低成長化とその中でも有利な立場を築く人たち


長い期間にわたって資産運用を行うにあたり、今後の世界経済の見通しを持っておくことはとても重要です。近年は各国の株式市場全体をあらわす指数(インデックス)に簡単に投資できるETFやインデックス投信の広がりなどもあって、徐々にパッシブ運用への関心が増しています。

今回の記事では、アメリカでの主流社会誌の1つ、フォーリン・アフェアーズ・リポートの日本版(2017年6月号)に掲載されていた、モルガン・スタンレーのルチル・シャルマ氏(チーフ・グローバルストラテジスト)による、今後の世界経済の低成長化を予測する「経済成長への期待と憂鬱な現実-「奇跡の世界後」の経済に備えよ-」という記事の内容を紹介します。

インデックスに投資するETF

まず、本稿の主旨と異なりますが、インデックス投資について簡単に触れておきましょう。
インデックス(指数)とは、例えばトヨタ自動車の株や三菱商事の株などといった個別銘柄ではなく、日経平均225・TOPIX・といった市場の動きを表す特定のインデックスと連動した値動きを目指す投資です。アメリカであればダウ指数やS&P500という指数があり、各国の株式市場を代表する指数があり、それをインデックスと呼びます。
こうした特定のインデックスと連動して値動きが起こるように設計されたETF(上場投資信託)やインデックス型投資信託が販売されており、こうした指数を売買することでインデックス投資は可能になります。

インデックス投資のメリットはいつくかありますが、一番はコストの少なさでしょう。インデックス連動型ETFは売買に関するコストが低い場合が多く、アクティブ型の投資信託を買う場合に比べて手数料の支出が低く抑えられます。また個別銘柄を売買する場合、どうしても個人レベルでは事前察知しようもない企業の不祥事による急な値下がりなどもあるため、予期せぬリスクやニュースに気を配っておかなければなりません。しかしインデックスへの長期投資の場合は、その国の経済のマクロ的な傾向に対して長期的な経済成長に乗っていく方法になり、それほどこまめに市況やニュースのチェックをしなくても大丈夫になります。忙しいビジネスマンにとってはこうした時間的な節約という要素も大きなメリットと言えるでしょう。
また、プロのファンドマネージャーが運用するアクティブ投資でも、市場平均であるインデックスに長期的に勝つことは難しく、様々な過去の運用成果の研究では、平均的なアクティブファンドはインデックスファンドより劣っているという結果があり、米国ではインデックスファンドやETFへの資金流入が増大しています。

いずれにしても、投資は自己責任である以上、ある程度は。経済全体の傾向については自分なりの考えや予測を持っておくと良いでしょう。

世界を低成長化させる3つのD

ここから本稿の本論に入っていきましょう。経済指標と市場は必ずしも連動するわけではありませんが、長期的には市場動向は経済指標と相関し、世界経済の見通しを持っておくことは重要です。
冒頭にて紹介したルチル・シャルマ氏(モルガン・スタンレー/チーフ・グローバルストラテジスト)は、世界経済の低成長化を予見しています。2008年前の水準に比べて主要各国の経済成長は1-2%下がった状態になることを受け入れるべきだという主張をしています。

こうした主張は、人口減少(Depopulation)・レバレッジの解消(Deleveraging)・脱グローバル化(Deglobalization)の3つのDが背景として組み立てられています。それぞれの内容を見ていきます。

人口減少(Depopulation)

まず経済成長率の低下要因としての人口減少、特に世界的な生産年齢人口(経済社会で活発に活躍する15歳〜64歳の人口)の減少を取り上げています。この問題は日本には非常に馴染み深い問題と言えるかもしれません。少子高齢化が急速に進む日本では、生産年齢人口の減少は急速に進んでおり、すでにピーク時に比較して1000万人近く減少しています。

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そしてこうした傾向は、日本が顕著だとしても、先進国では世界的な傾向です。
特に発展途上国含めて避妊具が普及した影響は大きいと言われており、先進国を中心に世界全体で生産年齢人口の伸びが鈍化しています。

生産年齢人口の増加は経済成長と深く関わっていると多くの人が認めており、この影響は大きいと言えるでしょう。

レバレッジの解消(Deleveraging)

2つ目のDは2008年に起きた金融危機の結果としてのレバレッジ(銀行貸出=信用創造)の減少です。1980年代初頭から各国の中央銀行は金利の引き下げを始めた結果、融資のハードルが下がり市場にはマネーが溢れるようになりました。戦後爆発的に進んだ生産年齢人口の増加は1980年代にはすでに頭打ちとなっていましたが、その後も世界経済の成長が続いた理由の1つが貸出の増加によるマネーの増加を言われています。
(銀行による貸出の増加は経済に流通するマネーの総額を増加させ、この働きは信用創造と呼ばれています。)

その増加の幅は凄まじく、世界全体のGDPに対する世界全体の債務総額は1980年代初頭には100%でしたが、2008年には300%に膨らんでいたのです。
こうした市場に供給されたマネーの一部は投機的な取引へと向かい、金融市場の拡大に貢献しました。また一部は設備投資や研究開発などに向かい、経済成長へと貢献したのです。

しかし2008年の金融危機以降、金利は低いままですが民間側が借り手・貸し手ともに債務恐怖症と言っても良い状況に陥っており、貸出が伸び悩んでいます。

脱グローバル化(Deglobalization)

3つめのDはグローバル化の衰退です。少し意外に感じるかもしれませんが、2008年以降、経済のグローバル化傾向は縮小に転じており、例えば世界全体のGDPに占める貿易の割合は2008年の60%から、直近では55%に減少しています。

もともと1980年代以降、冷戦が収束に向かう中で世界経済における国境は低くなり、世界各国で貿易と輸出産業が活性化しました。そして輸出産業の伸びが各国のGDP成長へ貢献する余地が非常に大きかったのです(日本における自動車産業など)。
しかし2008年の金融危機以降、経済が冷え込む中、各国で市民が仕事を求めて外国製品の排斥とまで言うと大げさですが輸入商壁の強化を訴えるようになってきました。その最も象徴的な出来事が自国主義を掲げて大統領選を勝利したトランプ大統領の当選と言えるでしょう。

ポピュリズム台頭への不安

上記のような制約の発生により、ルチル・シャルマ氏は世界経済の成長鈍化を予見しています。
1人当たりの年間所得が5000ドルを下回るような貧国の場合、母数が小さいので7%程度の高成長を実現させてきました。しかしこうした国でもその成長率は5%前後に抑制されるかもしれません。
中国の場合、今の中国共産党首脳部が求めるような6%の経済成長ではなく、4%程度の経済成長が実現できれば御の字となり、アメリカの場合はそれが1.5%になると言っています。

こうした低成長時代の政治的リスクとして、ポピュリズムの危険性が指摘されています。つまり政治的指導者が、国民の経済不安・不満に対して正面から向き合わずに、人気取りとなるような政策にばかり耽ってしまうリスクです。
そしてこうした場合の人気取り政策には、軍事行動も含めた他国に対する高圧主義や、自国中心的な貿易政策などが挙げられます。

例えば、2014年の原油価格暴落によって国民1人当たりの年間平均所得が1万5000ドルから9000ドルにまで暴落したロシアでは、クリミアの侵略的併合や、シリアのアサド政権支援のための軍事介入などが目立ちます。
またトルコでは、指導者であるエルアドン大統領が現在のトルコ経済の苦境(財政赤字とインフレ率の拡大・低成長)の原因はアメリカやEUの陰謀によるというキャンペンを展開し、国民の支持を集めています。

低成長時代の勝者

ルチル・シャルマ氏は、レポートの中でこうした低成長・脱グローバル化時代が続けば経済的な勝者の顔ぶれに変更が見られる可能性を指摘しています。
例えばグローバルな多国籍企業が有していたような優位性は、輸入商壁の強化や工場などの海外移転の規制などによって徐々に弱まっていき、小規模で国内市場の方向を向いた会社に有利になるかもしれません。
また人口減少と脱グローバル化(移民の受け入れ減少)が続く中で人手不足が今以上に深刻化し、労働者の立場が有利なものに変わっていくかもしれません。

以上、モルガン・スタンレーのチーフ・グローバルストラテジスト、ルチル・シャルマ氏の世界経済に対する予測記事のまとめをお届けしました。
資産を運用し守るにあたって、経済の大局観を持つことは簡単ではありませんが、自分なりの理解をきちんと持つ事は大切です。

【参考記事】
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