近年の税務調査と徴収の傾向(8月23日BAC定例会参加レポート)


「近年の税務調査の動向」をテーマに、2018年8月23日(木)にビジネス会計人クラブ(以下BAC)の定例会が開催されました。当日は税理士法人平川会計パートナーズ代表社員の平川茂氏のコーディネートのもと、税務調査の動向に詳しい国税庁や東京国税局出身の税理士の先生がパネリストを務められていましたので、非常に現場感のある有意義なお話が聞ける催しだったのですが、この定例会に相続tokyoのスタッフが参加してきましたので、参考となった点などをお届けします。

近年、国税局や税務署は特に富裕層を対象とした課税に力を入れており、またその租税回避(や脱税)に対しても目を光らせています。また特にグローバル企業や富裕層による、国際的なスキームを駆使した租税回避や脱税が世界的なテーマとなっているため、消費税の還付を含めた海外案件の摘発にも力を入れています。
こうした背景があるなかで、今税務調査や徴収にはどのようなトレンドがあるのかを見ていきましょう。

パネリストの自己紹介

当日は以下の国税庁OB税理士の方々が、パネリストを務められていました。

中島 洋二氏(税理士) (一社)租税調査研究会 主任研究員

<主な経歴と役職>東京国税局徴収部管理課課長補佐、国税庁監督評価官、
東京国税局徴収部S-1特別国税徴収官、東京国税局調査部統括国税調査官、鎌倉税務署長、
東京国税局徴収部機動課長、東京国税局徴収部管理運営課長、東京国税局徴収部次長、横浜中税務署長

上記の通り、徴収部隊の整理関係をメインで担当されてきた方で、特に徴収に関してのスペシャリストです。査察部の監察官以外はだいだい経験されたとのことでした。
平成24年に退官され、現在は65歳とのことです。

なお、徴収以外の業務としては、税務署内部の事務にも精通していらっしゃり、特に税務署の窓口統合が行われた際に所轄税務署では担当課長をされていたので、背景の事情にもお詳しいです。もともと税務署の窓口は、担当課ごとに所内で別々に分けられていたのが、近年1本化されたのですが、それによって利用者の利便性が向上しただけではなく、内部事務の統一・効率化によって人員の余剰を生み、外部に調査・徴収に行ける体制も強化されたとのことです。

中山 正幸氏(税理士) (一社)租税調査研究会 主任研究員

<主な経歴と役職>東京国税局課税一部資料調査課実査官(相続税調査)、同局調査部調査官(不動産業、通信業、
保険業、銀行業、証券業など)、同局調査一部国際調査課主任国際税務専門官、同主任国際情報審理官、税務大学校
専門教育部教授、東京国税局調査一部外国法人第一部門統括国税調査官、島原税務署長

中山先生は税務署や国税局の中でもずっと調査部畑を歩まれてきた方であり、その分野のスペシャリストです。また国税庁の税務大学校での教授職も1年間務められており、そこでは国際租税セミナーを担当したり、外国法人部門にて統括官を務められたこともあるため、国際的な電子取引への課税や、国際的なスキームを駆使した租税回避・脱税の調査のスペシャリストでもあります。

なお現在は、税理士法人で国際税務の担当されています。

北林 隆明氏(税理士) (一社)租税調査研究会 主任研究員

<主な経歴と役職>大蔵省大臣官房付、国税庁間接税消費税課国税実査官、国税庁長官官房人事課係長(管理係、秘書係、試験係)、
同課長補佐、佐原税務署長、東京国税局調査第1部調査開発課長、同局課税第2部消費税課長同局調査第2部次長、板橋署長等

北林先生は現在開業2年目の税理士で、国税局時代は消費税のスペシャリストでした。廃案となったものの消費税の原型となった売上税が議論の俎上に登った、時の中曽根内政権時や、実際に消費税の導入が決まった竹下内閣時の頃から消費税の分野に携わっていたプロフェッショナルであり、消費税の還付事案にもお詳しい方です。

近年の税務調査・徴収のトレンド

無申告・国際・黒字企業がトレンド(北林)

国税の職場は毎年7月〜6月が事務年度扱いとなっており、限られた時間・人員・予算の中で一定の成果を上げるため、調査の方針は毎年課税部門長会議や、観察部長会議によって決められ、それに沿って行われるとのことでした(ちなみに、会議の概要は誰でも国税庁に申請すれば議事録などの資料が閲覧できるとのことです)。
それによりますと直近のトレンド1位は、本来申告するべき人がきちんと申告しているかどうかという無申告のチェックとのことです。課税の公平性や国民感情、また税務署の面子という意味でも、収入があるにもかかわらずそれを無申告で済ますというのは見逃せないとのことでした。

また最近は継続的なトレンドとして国際関連時間の調査に年々リソースが割かれるようになってきており、また黒字企業のチェックにもリソースが割かれているとのことです。これは赤字企業は調査の対象外というわけではないのですが、特に消費税の申告に間違いがないかや、輸出戻し税などで還付がある場合、過剰請求されていないかに目を光らせるとのことです。

重点分野は消費税と富裕層(中山)

近年、消費税の調査や徴収に力が入れられているのですが、それは消費税であれば赤字企業からでも安定的に税収が見込まれるため、重要視されているからです。
その次が富裕層への課税で、特にストックから入るフローへの課税が強化されているとのことでした。

また国際事案の課税が強化されている背景として、やはり海外を活用されるとどうしてもバレづらく、実際に捕捉できないことも多いため、今後も力を入れていきたいと思っているだろうとのことです。

特別機動国税徴収官などの体制の整備(中島)

近年、調査・徴収ともにその能力を強化するため内部の改革も進んでおり、その1つが特別機動国税徴収官という存在だそうです。この制度は、東京国税局の職員が国税局の職員の身分のまま各税務署に出向し、そこを現場として勤務に当たる制度であり、これまでどうしても国税局のある築地から距離の離れた事案に対して目が行き届いていなかった状況があったので、その改善のために設けられた制度とのことです。
(なお徴収も調査と同様消費税が重視されているそうです。)

ちなみに海外事案に関する徴収に関してですが、現在力を入れているのが国同士の徴収バーター取引だそうです。基本的に海外財産には国税徴収法が及ばないため、現地当国に財産の差し押さえを行ってもらい、それを現金化して日本に送金して欲しいのですが、基本的にどの国もそうしたことは面倒くさがって対応してくれないという問題がありました(日本が海外から依頼され、差し押える側であっても腰が重いそうです)。
ただこうした分野は各国の課税当局がお互い様なので、バーター取引的に差し押さえ案件を増やしていきそうだとのことでした。

また、納税者もしくはその関係者が滞納処分の執行を免れるために財産の隠蔽などを行う行為は滞納処分免脱罪といって刑事罰の対象になるのですが、検察と協力しこの適用を増やしていく方針との事です。

具体的な調査・徴収事案の紹介

当日は、近年の著名な調査・徴収事案の解説も以下のように行われました。

メルカリポインとの事例

2018年5月30日、一部の報道機関によってスマホによるフリマアプリ「メルカリ」で有名な株式会社メルカリに、メルカリ社が会員向けに発行するメルカリポイントの消費税課税上の取り扱いがテーマとなって、東京国税局より更正通知が行われたという報道がなされました。
概要を言いますと、メルカリは利用されるポイントの付与に関して、消費税の課税仕入れを行っていたのですが、それは課税仕入れには当たらないという通知です。

一般的なポイント制度では、何か商品を購入する際ににポイントを入手でき、そのポイントを商品の購入時に割引として活用出来るというものです。しかしメルカリのポイントは利用者がアプリに登録したり、紹介者が登録した際に付与され、さらに利用者がポイントを使うとメルカリから商品を購入する時ではなく、メルカリの利用者間の商取引の際に、買い手が売り手に支払う金額の一部がポイント利用分メルカリによって補填されるというものです。
この仕組みはお店と購入者の間で成立する一般のポイント制度とは異なって、課税仕入れの対象とならないため、消費税の計上に漏れがあるという指摘になりました。

メルカリは基本的に当局の主張を認めるようです。

ソフトバンクグループの子会社約939億円所得申告漏れ

ソフトバンクが買収した海外企業の所得のうち、親会社としてソフトバンクが申告するべきものが2016年3月期までの4年間で約939億円も申告漏れがあり、追徴課税役37億円が発生した事案です。

ソフトバンクは昔から借金を行いそのお金で買収を実施して事業を拡大、そして利息の支払いがあるために黒字額が少ない、もしくは赤字となり法人税額を少なく抑えるという経営をしてきた会社です。そして近年特に海外企業の買収を加速させる中で、その税務面でのデューデリジェンスが甘く、日本では認められないようなタックスヘイブンを活用した租税回避を行っていた会社があり、申告漏れが生じてしまったという事案です。
なお事務的な調査が追いつかなかったのは意図的なものではないとされ、重加算税の対象にはならず、また追徴税額も過去の赤字と相殺されたため、申告漏れの額からはだいぶ少ない約37億円で収まりました。

なおこうした問題は大企業だけのことではなく、近年では中小企業による海外企業の買収もあるため、十分注意が必要とのことです。特に税務署はオランダ、バミューダトライアングル、アイルランドなど、特殊な税制が採用されている国に子会社があると、特に注意して調べようと思いやすいとのことでした。
またマン島など特殊な地域(英国ではなく、英国王室の指摘所有領土なため、制度が特殊)に子会社や孫会社がある場合も、調査の対象となりやすいとのことです。

以上、BACの定例会で解説された近年の税務調査の動向をお届けしました。
相続tokyoでは今後もこのような課税トレンドに関する情報も、お届けしていきたいと思います。


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